近年、公的年金を補完する制度として重要性が高まる確定拠出年金(DC)。個人型(iDeCo)への関心が高まる一方で、加入者数で圧倒的大部分を占めるのが企業型DCです。その企業型DCですが、中には高コストなファンドしかラインアップしていないプランが存在する問題が指摘されています。この問題に関して専門メディアも声を上げ始めました。モーニングスターに次の記事が載っています。
723万人の企業型DCに運用商品見直しが急務、同一分類で信託報酬が年0.5%以上の差(モーニングスター)
まったく記事の指摘通りで、企業型DCこそ商品入れ替えの手間を惜しまず、加入者第一の対応を進めるべきです。企業型DCはiDeCo以上に低コストファンドをラインアップすべき。それが企業型DCの運用管理金融機関と導入企業の最低限の社会的責任です。
企業型DCに高コストなファンドしかランアップされてないプランが存在することは、早くから多くの個人ブロガーが問題提起してきましたし、私もこのブログで何度か指摘してきました。
企業型確定拠出年金(企業型DC)の商品ラインアップにも何らかの規制が必要ではないか
企業型DCにおける高コストファンドの存在が放置される最大の理由は、これまでプランの内容が加入者以外には事実上、公開されていなかったことがあります。また、加入者が直接に掛金を負担するiDeCoと異なり、企業型DCは加入者の勤務先企業が掛け金を支払うため、加入者にとって掛金負担が間接的となり、コストへの意識が高まらなかったという側面もあります。こうした状況を背景に、それこそ企業型DCプランを提供している運営管理金融機関と導入企業の間で一種の癒着、馴れ合いがあるのではないという疑念さえ生じています。
こうした問題は厚生労働省でも問題視しており、2019年7月から企業型DCプランを提供している運営管理金融機関に対して運用商品の一覧をWEBで公開することが義務付けられました。また、これに基づき事業主は自社が導入しているDCプランの商品ラインアップと比較して、運用商品の内容があまりに見劣りする場合はより良い運用商品に入れ替えることを促すことが期待されています。
今回のモーニングスターの記事は、こうした情報公開の結果をまとめたものです。それ自体は非常に有意義な記事です。ただ、あえて指摘すると、やはり金融機関に対する忖度も垣間見えます。記載された一覧表では各金融機関の取扱ファンドのカテゴリー別最低信託報酬をまとめていますが、これだけを見ると比較的低水準で横並びに見えます。しかし、逆に取扱インデックスファンドのカテゴリー別最高信託報酬をまとめるとどうなるか。驚くべきことにインデックスファンドでありながら信託報酬は1%近いものも散見されます。そして、そういった高コストなファンドしかラインアップされていない企業型DCプランが実際に存在するのです。
こうしたことがなぜ問題なのか。これに関してモーニングスターの記事は次のように指摘しています。
企業型DCのガバナンスで、運用商品のラインナップの見直しは、もっとも効果が分かりやすいことのひとつだ。継続投資教育に一生懸命に取り組んだとしても、加入者の運用成績が継続的に年0.5%も上がることは難しいだろう。ところが、年0.7%の信託報酬の商品を、年0.2%の商品に入れ替えるだけで、自動的に年0.5%のプラスの効果が得られる。既に、0.2%の信託報酬の商品がラインナップされているのであれば問題ないものの、年0.7%の信託報酬の商品しかない場合、何もしないのであれば、企業側の怠慢を責められても仕方がないといえよう。この「企業側の怠慢」が大問題なのです。なぜなら、個人型DC(iDeCo)なら加入者は自分でラインアップを確認して有利なプランの金融機関を主体的に選ぶことができるのに対して、企業型DCは基本的に会社が用意したプランに従業員が強制加入となるからです。強制加入の制度で高コストな商品しか用意しないというのは、完全にフィデューシャリーデューティーに反する行為です。本来であれば個人型よりも優先して低コスト化を進めるのが運営管理金融機関と導入企業、そして導入に同意している労働組合や従業員代表の責任のはずです。
ですから今回、企業型DCの商品公開によってモーニングスターの記事のような指摘が出てきたことは一つの成果でしょう。ぜひ専門メディアには引き続き企業型DCにおける高コストファンドラインアップ問題について問題提起を続けて欲しいと思います。そして記事が最後に指摘しているように企業型導入企業にも「ぜひ、この機会に運用商品ラインナップの見直しに取り組んでいただきたい」と思います。それは本当の意味で日本においてDCが普及するための絶対条件のはずです。
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