モーニングスターに面白い記事が載っていました。
【GW特集】iDeCoは資産形成のベースになる制度、つみたてNISAを併用した資産形成プランを考える(モーニングスター)
これを読むと、政府も国民の老後資金の準備に対する制度整備を真剣に考えているのだなということがよくわかります(もちろん背景には、公的年金などの拡充が財政的に難しいことがありますが)。とくに記事でも紹介されている金融審議会の事務局である金融庁が示した家計の資産形成の「理想的なケース」が、なかなかリアルなのです。
現在、政府の社会保障審議会(企業年金・個人年金部会)では改正確定拠出年金法(改正DC法)の再改正に向けた議論が進められています。様々な論点がある中で、個人型確定拠出年金(iDeCo)に関してとくに集中的に議論されているのが「個人の自助努力を支援する環境の整備」です。背景には、公的年金の受給額だけでは現在でも老後生活を支えるには不十分であり、しかも今後は公的年金の受給額が実質的に減ってくるという現実です。このため政府としても現役時代にせっせと老後資金を積み立てて、老後の生活の心配を小さくしようということになります。
こういう話題になると、必ず「国民の自助努力に頼るのではなく、政府は公的社会保障を充実させろ」という人がいるのですが、現実的には難しい面があります。とくに少子高齢化が進む先進国の場合、年金など老人福祉を過度に充実させると結果的に若年層から富を収奪し、高齢層に富を移転する結果になるからです。このため厚生経済学や年金問題の専門家の間では、少子高齢化社会における老人福祉問題の解決策は「長く生き、長く働く」ことであるとして、既に最終結論が出ているのです。
ところが今後、「長く働く」ということも簡単ではなくなりそうです。記事でも「「働きたい」と「働くことができる」は別だ。AI(人工知能)の進化や自動化の進展によって、誰にでもできる(未経験者でもできる)単純労働は機械が代わって働くようになるだろう」と指摘するように、高齢者が働けるような単純労働の需要は減少するかもしれない。だからこそ「働けるうちに働いて将来のための貯蓄を増やす」ことの重要性が一段と増すわけで、ここに政府がiDeCoや「つみたてNISA」など税制優遇制度まで作って国民の資産形成を促進しようとしている理由があるのです。
このあたりの事情に関して政府はかなり詳細な分析を行っていると思わせるのが、以下のような金融庁が示した家計の資産形成の「理想的なケース」です。
就職してすぐ、23歳から「つみたてNISA」を毎月2万円(年24万円)で始め、31歳になって給与も上がってゆとりがでたら「iDeCo」の併用を開始。iDeCoは毎月1.2万円(年14.4万円)。35歳で住宅の頭金としてつみたてNISAを全額解約(359万円引出し)。これは異様にリアルなシミュレーションです。金融庁はここまで具体的に制度の活用法を想定していたのかと驚きました。途中引き出しが可能な「つみたてNISA」でライフイベントに対応しながら、老後資金のベースは途中換金不可のiDeCoで作るという戦略は、なかなか一貫したもので見事。また、所得がまだ少ない若年層は「つみたてNISA」から始め、中高年になって収入が増えてきたらiDeCoを始めるという考え方も、掛金が全額所得控除されることによる課税繰り延べ効果を考えると理にかなっています(収入が少ないうちは、所得控除による課税繰り延べ額が小さため)。かなり参考になるのではないでしょうか。
そして、35歳から5年間は住宅ローンの返済のために、つみたてNISAを休止してiDeCoのみを継続。41歳からつみたてNISAを再開し、ここからはフルで枠(年間40万円)を使い切り、毎月3.3万円を積み立て。iDeCoと合わせて毎月4.5万円を積み立てる計算だ。その結果、65歳時には1933万円の資産ができている。この計算は、年利2%で運用することが条件になっている。収益非課税の恩恵をフルに享受して複利で資産を積み上げる計算だ。ゼロ金利では、65歳時点での貯蓄額は1494万円にしかならない。
確かに日本の社会保障制度は問題山積です。また、政府に対する不信感も小さくない。しかし、日本の官僚制度というのは我々が想像しているほど賢くはないけれども、やはり我々が想像しているほど馬鹿でもない。可能な選択肢の中で最善を考えているわけです。それが「政策」というものです(もちろん、合成の誤謬はありますが)。
だとするならば、政府が用意している制度は、可能な限り活用するというのが庶民にとってはベターな選択肢になるのでは。それは政府を100%信用するということとも違うのです。政府や制度を過信せずに活用する。それこそが市民として自立することにつながるはずです。記事の最後の「令和の時代を迎えるこの大型連休に一度しっかり考えてみたい。将来に向けた資産形成は順調だろうか。また、少しでも将来に向けた資産形成が始められないかということを。時代が代わるように、時間は着実に進んでいくのだから」という提言の意味は極めて重いと感じました。
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