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2021年1月10日

ニッセイ「<購入・換金手数料なし>」シリーズこそがインデックスファンドの低コスト化を決定づけた

 

先日、三菱UFJ国際投信の低コストインデックスファンド「eMAXIS」シリーズの合計純資産残高が1兆円を超えたというニュースを紹介しました。なんとなく「eMAXIS Slim」シリーズの一人勝ち感が強まっているわけですが、だからこそあえて指摘しておかなければならないことがあります。ここ数年、インデックスファンドの信託報酬は急激に低下したのですが、それを決定づけたのは「eMAXIS Slim」ではなく、もう一方の雄であるニッセイアセットマネジメントの「<購入・換金手数料なし>」シリーズだったということです。これはファンド登場の順序などの問題ではなく、もっと構造的に決定づけられたものだったからです。

2017年2月に「eMAXIS Slim」が「業界最低水準の運用コストを将来にわたってめざし続ける」というコンセプトを掲げて登場した時、私は大きな衝撃を受けたのですが、そこには一種の違和感もありました。なぜなら、信託報酬を引き下げる要因が常に競合ファンドの動向に従属するものだったからです。そういった他律的なコスト引き下げ構造は、下手をすると低コスト競争を終わらせる遠因になるという危惧を持ったのです。そういった違和感を当時、ブログにも何度か書いています。

当時のブログで指摘したように「eMAXIS Slim」の登場によって他の運用会社にとって信託報酬の引き下げ競争は“勝てない勝負”になったと感じました。そのため低コスト競争へのインセンティブが低下し、「eMAXIS Slim」の信託報酬が業界全体のアンカーになることを危惧したわけです。そして、それによって低コスト競争を“終わらせる”ことがMUFGの狙いではないかという疑いすら持ちました。なぜら信託報酬というのは本来、純資産残高増加によって運用の単位当たりコストが低下することで実現するものだからです。そういった自律的な信託報酬引き下げ構造を無視した「eMAXIS Slim」のやり方は、いかにもいびつに感じたのです。

ところが現実は私の危惧を裏切り、極めてポジティブな方向へと向かいます。その動きを決定づけたものこそ、ニッセイ「<購入・換金手数料なし>」シリーズの果敢な動きでした。2017年11月を皮切りに、その後も断続的に信託報酬の引き下げを実施してきました。そして、そのたびに「eMAXIS Slim」も信託報酬引き下げを実施し、「<購入・換金手数料なし>」はコスト最安値に並ばれるという現象を繰り返しています。いわば「<購入・換金手数料なし>」シリーズは、“勝てない競争”にあえて挑んでいるわけです。その間、両者以外の多くの低コストインデックスファンドシリーズは事実上、低コスト競争から脱落していったのです。

「<購入・換金手数料なし>」は、“勝てない競争”であるにもかかわらず、純資産残高が増加すれば、それによって生じた単位当たり運用コストの低下を受益者に還元するという自律的な信託報酬引き下げ構造に基づく行動を実践してきました。それによってインデックスファンドの低コスト競争が決定づけられたわけです。言い換えると、たとえ「eMAXIS Slim」の存在がなくとも「<購入・換金手数料なし>」は信託報酬を引き下げただろうけれども、もし「<購入・換金手数料なし>」の動きがなければ、「eMAXIS Slim」の信託報酬は下がらなかったことになります。つまり「eMAXIS Slim」の他律的な信託報酬引き下げ構造はインデックスファンドの低コスト競争において「必要条件」にではあったけれども、「<購入・換金手数料なし>」の自律的な信託報酬引き下げ構造こそが「十分条件」だったと言えるでしょう。

ここに私が「eMAXIS Slim」よりも「<購入・換金手数料なし>」を評価し、現在も積立投資の対象ファンドとして選択している理由があります。そして皮肉な話ですが、「<購入・換金手数料なし>」の純資産残高が増加して信託報酬が引き下げられない限り、「eMAXIS Slim」の信託報酬も下がらないというのが、現在の日本のインデックスファンドの低コスト競争の基本構造になっているからでもあります。この構造は「eMAXIS Slim」の他律的な信託報酬引き下げ構造が改められない限り変わらないでしょう。やはり今も低コスト競争を決定づけ、主導するのは「<購入・換金手数料なし>」の方なのです。




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