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2019年5月15日

貯金も株式投資も“バカ”になってはいけない―荻原博子×中野晴啓対談を読んで感じたこと


「週刊エコノミスト」2019年5/21号に経済ジャーナリストの荻原博子さんとセゾン投信の中野晴啓社長の対談が載っています。「投資なんか、おやめなさい?」という刺激的なタイトルだったので、リスク資産への投資は無用派の荻原さんと長期投資必要派の中野社長がどんな議論をするのか興味深く読みました。そこで感じたことですが、どうも議論がかみ合いません。その理由はいろいろあるのですが、やはり根本原因は荻原さんが「投資」という言葉の意味を勘違いしているからでしょう。荻原さんは「投資」と「貯金」という言葉を対立する意味で使っていますが、これが大きな勘違いです。こういった勘違いは荻原さんに限らず世間一般でもよく見かけます。そして、そうした勘違いが、ある種の“バカ”を生み出してしまう。でも、貯金にしろ株式投資にしろ“バカ”になってはいけないのです。

発売直後の雑誌記事の内容をあまり詳細に紹介するのは出版元に申し訳ないので興味のある人は実際に記事を読んで欲しいと思いますが、全体としての印象は中野社長が荻原さんの主張をある程度理解しながら対談に臨んでいるのに対し、荻原さんは国際分散投資や積立投資、投資信託の仕組みといったものに対する知識不足が目立ちます。このため荻原さんが投資反対の立場からいろいろと突っかかってくるのを中野社長が華麗にいなす一方、中野社長の主張も最後まで荻原さんに理解されたようには見えません。なんとも噛み合わない消化不良の対談になってしまったわけです。



その原因はいろいろあるのですが、やはり最大の原因は荻原さんが「投資」という言葉の意味を勘違いしているからです。荻原さんは「投資」と「貯金」を対立する意味で使っていますが、これが大きな勘違いです。「投資」とは文字通り資金を何らかの投資対象に投じることで価値の保存や利潤獲得を目指す行為の総称です。そして投資対象には預金や自国通貨建て国債なども含まれます。つまり、「貯金」もまた「投資」の一種にほかなりません。だから、そもそも「投資なんか、おやめなさい。貯金だけで十分です」という主張自体が、矛盾した主張となるわけです。

そして、同じ投資でもそれぞれ利点と欠点があります。例えば貯金は無リスクで元本の名目価値を守ることが強みですが、逆にインフレによる実質価値の毀損に対して弱い。一方、株式投資は元本割れのリスクがあるけれどもインフレから資産の実質価値を守るのに有効です。だから、「貯金だけで十分」という意見と「絶対にリスク資産に投資しなければならない」という意見はともにある特定の条件だけを前提とした投資観であって、その条件が変わってしまうと有効性を失う。荻原さんのように今後も日本でデフレが続くと決めつけて「預金だけで十分」と言い切ってしまうのは、「株は絶対に儲かる」と言い切ってしまうのと同じレベルなのです。つまり、どちらも将来の不確実性を無視しているという意味で、“バカ”な意見です。

結局、「貯金か、リスク資産への投資か」という二項対立で考えていること自体が無意味です。いずれも有意義な投資手法ですから、バランスよく両方を実践するのが資産形成・運用の大前提。そして、実際にインデックスファンドによる国際分散・長期積立投資を実践している人の多くは、貯金とリスク資産への投資を両立しています。そういう実態を知らずに「投資なんか、おやめなさい」「貯金だけで十分」と言われると、つい鼻白んでしまう。これが荻原・中野対談での荻原さんの発言に感じたなんとも言えない違和感の正体です。

いずれにしても、貯金にしろ株式投資にしろ“バカ”になってはいけないということです。「投資なんか、おやめなさい。貯金だけで十分」という“貯金バカ”と「貯金なんて無駄。可能な限り株式投資に資金を振り分けるべき」という“株式投資バカ”は、同じレベルで“バカ”なのです。そして「争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない!!」というように、世間ではバカ同士での不毛な論争もよく起こるわけです。そういった不毛な論争から卒業することが、たぶん成熟した大人の投資家になることなのでしょう。

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