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2017年2月27日

新興国の通貨がいつまでも弱いままとは限らない



ようやく海外出張も終わり、今日夕方にはマレーシア・ペナン島から日本に帰国します。昨日は久しぶりにペナン島で休日を過ごし、ホテル周辺を少し散策したのですが、やっぱり暑い。東南アジアは基本的に歩き回る場所ではないと再確認しました。思わず印僑のおじさんがやってるローカルのカフェに飛び込み、ココナッツミルクのトロピカルジューズなんかを飲みながら、何をするでもなくダラダラと過ごす。洒落たジュースが4リンギ(1リンギ=約25円〈2017年2月現在〉)ですから安いものです。そういうわけで今回は新興国の通貨についてちょっとした個人的感想を述べておこうと思います。私は、新興国の通貨だからといって、いつもでも弱いままとは限らないというふうに考えているのです。

新興国の株式や債券に投資する場合、最大のリスクは現地通貨が弱いことです。このためどれだけ表面利回りが良くても、通貨下落で円ベースでのリターンを大きく毀損してしまい、これは新興国投資不要論の最大の根拠となっています。ところが最近感じるのは、どうも新興国の通貨も以前のように一方的に下落する傾向が弱まってきたような気がします。

基本的に為替は予想不可能なのですが、やはり異なる商品の交換だと理解すれば長期的には需給バランスに左右される傾向があります。通貨の需給バランスを決定付ける大きな要因の1つに国際収支(経常収支+資本・投資収支)があります。国際収支の黒字が大きければ、それだけその国の通貨は強くなる。なぜなら稼いだ黒字は海外で再投資する以外は自国通貨に換えなければならず(最低でも税金は自国通貨で払う必要がありますから)、日常的に自国通貨買い・外貨売りが淡々と行われるからです。

例えば円とドルの為替相場を比較すると、日本が膨大な経常収支を持つ一方で米国は膨大な経常赤字。だから何もなければ円高・ドル安となる。ただ、世界的に景気が良いとやはり米国市場は魅力的ですから世界中の資本が米国に集まって資本・投資収支の黒字が拡大し、国際収支が改善するのでドル高となる。逆に日本は景気が悪くなるとと海外投資も減少しますから資本・投資収支の赤字が縮小して国際収支の黒字が拡大するので円高傾向となるわけです。

このメカニズムが分かれば、新興国の通貨が弱い理由も分かります。ほとんどの新興国は天然資源など一次産品を中心に輸出し、付加価値の高い化成品・工業製品などを輸入しています。このため経常収支・国際収支ともに赤字の国が多く、こういった国の通貨は弱い傾向があります(ちなみに経常収支が大幅な黒字であるにもかかわらず通貨高が抑えられている中国や韓国のような国は、なんらかの特殊要因があるか、為替操作を行っている可能性があります)。そこで通貨の弱い国は政策金利を高くするなどで海外から資金を呼び込み、資本・投資収支の拡大で国際収支を改善し、自国通貨を支えているのです。だから経済危機などで海外からの資本が流出すると、それこそ新興国の通貨は釣瓶落としのように下落することが多いのです。

ところが最近、どうも新興国の通貨の中には足腰がしっかりとしてきたものも増えてきました。例えばインドネシア・ルビアは弱い通貨の代表格でしたが、昔に比べると下落幅が小さくなった。この要因の1つが国際収支の改善です。インドネシアは恒常的に経常収支が赤字でしたが、最近は貿易収支の赤字が縮小したことで経常収支の赤字も縮小しています。資本・投資収支の黒字も拡大したことで2016年は国際収支も黒字を回復しています。これが意外とルピアがしっかりとしている理由の1つでしょう。

こういったことを見ると、やはり将来にわたって新興国の通貨が弱いままだと思い込むのは、やっぱり勉強が足りないと思う。新興国だって産業構造が少しづつ変化し、国際収支の内容も変わってきます。工業製品の輸出も増加する可能性があるわけですから、そうなれば経常収支も黒字に向かう可能性があります。少なくともいつまでも国際収支が赤字のままだとは限らないのです。国際収支の黒字が定着すれば、短期的な変動は別にして、長期的には新興国の通貨もしっかりとしてくるのではないでしょうか。

そして通貨安のリスクが低下すれば、国際分散投資における新興国への投資は旨味が増します。とくに新興国債券は、けっこう重要なアセットクラスになるのではと個人的に感じています。そして、こうした通貨の将来性に対する期待も、私が新興国に投資することを好んでいる理由。少なくとも投資において物事を決めつけることが一番危険ですから。新興国の通貨がいつまでも弱いままだと決めつけたくはないのです。

もっとも、一言で新興国と言っても内実は様々ですから、今後も通貨が弱いままの国もあることでしょう。中国の人民元のように特殊要因が多い通貨もありますから。だから、新興国への投資こそ徹底した分散が大事。間違っても単独の新興国通貨に投資する債券や投資信託などは買ってはいけない。そういう観点からも、新興国への投資こそ幅広い銘柄に分散できるインデックス投資という手法が、最も理にかなっているのだとつくづく感じるのです。

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為替メカニズムについては、佐々木融さんの『弱い日本の強い円』が非常に参考になりました。

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