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2023年1月23日

歴史性というもの―「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2022」雑感

 

「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2022」の結果発表・表彰式が1月21日に開催されました。新型コロナウイルス禍のため今回もオンライン開催となりました。結果をふまえ、今回も感じたことをメモしておきたいと思います。今回は「歴史性というもの」について、いろいろと考えさせられました。

今回の「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2022」の結果は以下のようになりました。

1位 eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)
2位 <購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド
3位 eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
4位 バンガード・トータル・ワールド・ストックETF(VT)
5位 eMAXIS Slim 先進国株式インデックス
6位 セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド
7位 ひふみ投信
8位 楽天・全米株式インデックス・ファンド
9位 結い2101
10位 農林中金〈パートナーズ〉長期厳選投資おおぶね

1位と2位は3年連続で同じとなりました。とくに1位の「eMAXIS Slim全世界株式(オールカントリー)」は得票数で他を圧倒しており、あいかわらずの盤石ぶりです。ただ、上位にランクインしたファンドの順位差は、ファンドとしての優劣というよりも、連動する指数の人気の差でしょう。現在の投信ブロガーの間では、全世界株式指数の方が先進国株式(日本除く)指数よりも人気があるということです。これは4位に「バンガード・トータル・ワールド・ストックETF(VT)」が入っていることからもうかがえます。

それよりも面白いのは、同じ先進国株式(日本除く)指数に連動するインデックスファンドでありながら、「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」が「eMAXIS Slim 先進国株式インデックス」よりも上位にランクインしていることです。それは、投票した投信ブロガーの評価軸に、ある種の「歴史性」といったものがあると見ることができるからです。

「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」は2013年の設定ですから、すでに10年近くこのファンドを購入・保有している投信ブロガーが数多く存在します。そういった人の間では、その間にこのファンドが実践してきたことの意味を高く評価している人が多いのでしょう。それは、自律的に信託報酬を引き下げることで、既存ファンドのコストが下がるという、それこそ長らく日本の投信業界おざなりにされてきた受益者の要望を実現し、現在のインデックスファンドの低コスト競争の“流れ”を作ったことです。やはり“パイオニア”に対する評価というのは、別格なのです。

こうした「歴史性」が評価軸で大きな意味を持つという傾向が一段と鮮明になったのが今回のFOYではないでしょうか。それは、パッシブファンドの優位が圧倒的なFOYにあって、今回はトップ10に3つもアクティブファンドがランクインしていることが象徴しています。特に7位となった「ひふみ投信」は、2022年の運用成績が悲惨でした。運用成績を評価軸の中心に置けばランクインするはずがありません。しかし、トップ10にランクインしました。

これは、「ひふみ投信」に投票したブロガーが、それこそ短期的な運代成績の優劣をファンドの評価軸として絶対視していないということです。それよりも、長期にわたって購入・保有を続けてきた中で、「ひふみ投信」が受益者に対して“何をしてきたのか”ということが評価されている。それは、運用会社がつねに受益者と正対して濃密なコミュニケーションと情報発信を続けてきた中で、ファンドと受益者が共有している“経験”です。そういった“経験”が評価されるということこそ、ファンドに対する評価軸としての歴史性ということです。

そしてもう一つ鮮明になったことがあります。ファンドに対する評価軸として「歴史性」が大きな意味を持つようになれば、パッシブファンドとアクティブファンドに対する評価軸は、これまで以上に乖離が大きくなっているのではないかということです。皮肉な話ですが、パッシブファンドに対する理解が高まれば高まるほど、それとはまったく別の評価軸がアクティブファンドに対してはあり得るのだということが明確になるわけです。FOYはこれまでパッシブファンドに対する啓蒙で大きな役割を担ってきました。それが同時に、アクティブファンドに対する確固とした評価軸を持つ投信ブロガーも育ててきたことにもなったのです。

今回のFOYから投票方法が変更となり、新たに「投資YouTuberが選ぶ! Fund of the Year 2022(β)」と「#TwitterFundOfTheYear2022(β)」が試験的に実施されました。「投資YouTuberが選ぶ! Fund of the Year 2022(β)」は投票がゼロでしたが、「#TwitterFundOfTheYear2022(β)」の方は「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year」とは少し毛色の違う投票内容が散見されます。

FOYも変革を目指しているのでしょう。だとするならば、いずれ「パッシブファンド部門」と「アクティブファンド部門」に分けることもひとつの方法かもしれません。なぜなら、すでにパッシブファンドとアクティブファンドそれぞれの評価軸が、大きく異なってきているからです。部門を分けることでパッシブファンドとアクティブファンドそれぞれの評価軸を見つめることが、やがて「優れた投資信託とは何か」という問題をより高度に問い直すことにつながるように思います。そういうことができるほどに、FOYに投票する投信ブロガーの審美眼は、成熟してきているのだと感じます。

最後に、新型コロナウイルス禍がいまだ完全には収束しない中で、今回も無事にFOYが開催されたことは凄いことだと思います。あらためて運営委員会の皆さんには、心の底から「ご苦労様」、そして「ありがとうございました」と言いたいと思います。




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