中国の大手不動産企業、恒大集団(Evergrande Group)がデフォルトの危機に瀕しています。中国では恒大集団に投資していた個人投資家が同社に殺到し、「お金返かえして!」と叫んでいるそうです。じつは私も恒大集団に普通に投資していますよ。でも、あくまでインデックスファンドを通じての投資なので、「お金返して!」と叫ぶほどの打撃は受けていません。インデックス投資のような幅広い分散投資は、「個別企業リスク」を抑えてくれるという良い例でしょう。
恒大集団はMSCIエマージング・マーケット・インデックスに組み込まれているので、この指数に連動するインデックスファンドを保有すれば自動的に恒大集団にも投資することになります。私の場合、「eMAXIS Slim新興国インデックス」を保有しているので、運用報告書から実際にどれくらいの比率で恒大集団に投資しているのか確認してみましょう。
「eMAXIS Slim新興国株式インデックス」のマザーファンドである「新興国株式インデックスマザーファンド」の純資産残高は2020年5月12日段階で1040億円。このうち保有する恒大集団の株式は6690万円。比率にしてわずか0.06%です。恒大集団の株価はその後も大きく下げていますから、時価総額加重平均で保有ウエートが決まる関係上、現在の保有割合はさらに小さくなっているでしょう。極端な話、たとえ恒大集団が破綻して株式が全損となったとしても、インデックス全体で見れば、ほとんど何の影響もないということです。
ここにインデックス投資の利点があります。つまり、インデックス投資のように広く分散されたポートフォリオによる投資は、「個別企業リスク」をほとんど捨象してしまうわけです。もちろん、恒大集団のデフォルトをきっかけに中国の不動産バブルが崩壊し、それが世界に波及することで“第2のリーマン・ショック”のような状況になれば、インデックス全体も大きく下がるでしょう。しかし、それは株式全体が負わざるを得ない「市場リスク」です。インデックス投資は、「個別企業リスク」を抑えることができても、「市場リスク」は全面的に負う投資手法だということを忘れてはいけません。もっとも、インデックスが暴落するような「市場リスク」に見舞われた場合、恐らくほとんどの企業の株価も下落するわけですから、個別株への投資も「市場リスク」から逃れることは難しいでしょう。
ところで、なぜこんな当たり前のことをわざわざ指摘したのかというと、恒大集団への投資に関してちょっと気になるニュースがあったからです。
GPIF、中国恒大への投資額は96.73億円(ロイター)
GPIF、中国恒大に96.7億円投資-「年金運用に大きな影響なし」(ブルームバーグ)
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は世界最大級のインデックス投資家でもあるので、インデックスに組み込まれている恒大集団に投資しているのはごく自然なことです(これは債券でも同様)。そして、そんなことはロイターもブルームバーグよく分かっているはず。それをことさらニュースにするのは、年金運用の実情をあまり知らない読者をターゲットにした一種の煽り記事だとみなされてもしょうがない。ちょっと下品だと思う。
GPIFの広報担当である本多奈織さんは「分散投資の一環で、年金運用に大きな影響はない」とコメントしていますが、そうとしか答えられないわけで、バカな質問に付き合わされてじつに気の毒ですらあります。そして、こういった煽り記事を見るたびに、依然として日本人はメディアから見下されているのだという感じがして、やはりなんとも嫌な気分になるのでした。だから、あえて「私も普通に恒大集団に投資してますよ。でも、しっかりと分散投資しているので、ぜんぜん問題ないです」と言っておこうと思います。
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