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2021年7月26日

いかにも“日本的”だった東京オリンピック開会式

 

いよいよ東京オリンピックが開幕しました。いろいろ意見があったけれども、やっぱり始開幕早々、日本代表選手のメダルラッシュで盛り上がっています。4連休は「ステイ・ホーム」でテレビでいろいろな競技を観ました。その東京オリンピックですが、やはり話題だったのが開会式。様々な問題もあって、その出来栄えに賛否両論となっています。やはり新型コロナウイルス禍の中でのセレモニーということで、派手さを抑えた演出にせざるを得なった点は考慮するべきでしょう。そんな中でも、やはり良くも悪くも“日本的”だった開会式だったと感じました。

開会式は直前に演出チームに参加していたコーネリアス・小山田圭吾やラーメンズ・小林賢太郎が過去の不適切な発言や行動が問題視され、演出チームから外れるといった波乱がありました。それだけに開会式が無事に挙行できるのかさえ疑問視されることになります。

そうした中で行われた開会式ですが、印象をひとことで言うならば、“日本的雑居性”でしょうか。演出チームは「多様性」を訴えたかったようですが、そこに統一した思想がありません。だから前半のコンテンポラリー・ダンス、木遣り唄、タップダンス、海老蔵の「暫」とジャズピアノのコラボと、ひとつひとつのコンテンツは面白いのに、どこかバラバラに配置されている印象があります。

しかし、こうした多様性ではなく“雑居性”こそが日本なのかもしれません。ある意味で支離滅裂で一貫性がないものを不思議と同居させてしまう。MISIAがレインボーカラーのドレスを着て「日の丸」の下で「君が代」を歌うというのは、思想性を重視する人からすれば耐えられない光景でしょう。

そして、もっとも盛り上がった選手入場は「ドラゴンクエスト」から始まるゲーム音楽が彩ります。参加する“国”の存在をクローズアップする場面でゲーム音楽という無国籍な曲が選ばれる。ところが、ドラゴンクエストのテーマ曲を作ったすぎやまこういちは、極めて右翼的な思想の持主だったりします。このあたりも思想的一貫性を求める人には耐えられない演出だったかもしれません。

そして極めつけが聖火の最終ランナーで大坂なおみ選手が登場したこと。それまで女性蔑視、いじめ、ホロコーストとポリティカル・コレクトネスの観点から袋叩きにされてきた東京オリンピックが、最後は大坂なおみ選手を通じてポリティカル・コレクトネスを全面的に打ち出してしまう。

こうした開会式に対して、「多様性の簒奪」「ちぎりとられたダイバーシティ」といった批判の声が上がっています。確かに、そういった側面が多々あると思う。しかし、そういうことを平気でやってしまうのが、いかにも“日本的”でもあると感じたわけです。

ふと、芥川竜之介の「神神の微笑」という小説を思い出しました。物語の中で、キリスト教の布教のために来日した宣教師・オルガンティーノは順調に信者を増やすことができてキリスト教の勝利を確信しますが、そこに日本古代の神が現れて言います。「あなたは天主教を日本に広めようとしていますね。それも悪いことでもないかもしれません。しかしでうすもこの国に来ては、きっと最後には負けてしまいますよ」と。

矛盾も含めてなにもか飲み込んでしまう空虚な“場”としての日本。あらゆる思想が、それこそ小林秀雄の言葉を借りれば「様々なる意匠」として雑居してしまう。そんな「いかがわしく」「チープ」で、それでいて「強固」な構造こそが日本の特徴なのでしょう。それは近代的な価値観からすれば打ち倒すべき古さですが、やはり「きっと最後には負けてしまいますよ」ということが繰り返されています。

そして、そういった究極の相対主義が蔓延する日本だからこそ実現したこともあります。今回の開会式では1972年のミュンヘンオリンピックでパレスチナ武装組織によって殺害されたイスラエルの選手11人への追悼がオリンピック史上、初めて公式に実施されました。これこそ日本で開催されたオリンピックだからこそ可能だったのではないでしょうか。

なぜなら、もしキリスト教国での開催だったら、イスラエル選手への追悼をイスラム世界が許容できなかったはずです。ユダヤ・キリスト教の正義と同じように、パレスチナにはパレスチナの正義があるからです。しかし、そうした異なる正義を日本という空虚な場は同居させてしまう。それは「いかがわしい」ことだけれども、「いかがわしい」がゆえにあらゆる「正義」を脱色させた上での「追悼」もあり得るわけです。

もしかしたらそれは「分断」が色濃くなる現在の世界において、日本が示した可能性かもしれないと感じました。そうしたことも含めて、今回の東京オリンピックの開会式は“日本的”だと感じわけです。それが良いことなのか悪いことなのかは、依然として分かりませんが。




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