近年、インデックスファンドの低コスト化が急速に進んだのですが、ここにきて実質的に同じ商品であるにもかかわらず信託報酬の差が生じているという「一物多価」を問題視する声が上がり始めました。
投信の一物多価は許せるか 同じ商品で異なる報酬(「日本経済新聞」電子版)
この問題は私も以前から指摘してきたのですが、いよいよ金融庁も注視し始めたようです。ただ、同じ商品が異なる価格で販売されるというのは、他の商品でも一般的なことなので一概に「一物多価」を否定することはできません。今後問われるのは、価格の違いに対して“合理的な説明”が可能かどうかでしょう。
ほとんどのインデックスファンドはベビーファンド形式で運用されていますから、マザーファンドが同じインデックスファンドは実質的に同じ商品であり、運用成績もコスト控除前は同じになります。ところが信託報酬には大きな差があるというのがインデックスファンドの「一物多価」問題です。
日経新聞の記事では三菱UFJ国際投信が運用する新興国株式インデックスファンドが例に挙げられています。マザーファンドが同じでも信託報酬は最安値の「eMAXIS Slim新興国株式インデックス」が0.187%なのに対して、最高値の「新興国株式インデックスオープン」は1.1%とかなりの差があります。
こうした問題に対して金融庁も問題視しているようです。とくに金融機関と個人投資家の間にある情報の非対称性を考えると、フィデューシャリーデューティー(忠実義務)に反するのではないということです。このため金融商品の販売時に顧客に配布する予定の「重要情報シート」に同工異曲の商品を報酬率を明記させることが検討されているとか。
こうした改善策はぜひとも実行して欲しいものですが、そもそもなぜ実質的に同じ商品であるのにもかかわらず、異なる信託報酬が存在するのでしょうか。これは端的に言うと日本の金融機関は従来、既存ファンドの信託報酬をほとんど引き下げてこなかったからです。それでいて低コスト競争が起こると、同じマザーファンドを使って別の低コストなインデックスファンドを新規設定するという安直な方法をとってきました。その結果、事実上同じファンドなにの信託報酬が異なる商品が乱立することになったのです。
なので記事の中で運用会社が「個々の投信を最初に設定したときの事業環境などによっても報酬率には差が出てくる。すべての商品の報酬率が合理的に説明できるとはいえないが、差がある事情は理解してほしい」という言っているのも、なんとなく言い訳めいていて、やはり素直には納得できないというのが正直なところでしょう。考え方が安直でお手盛りだからです。
こう考えると、金融庁の指導も含めてインデックスファンドの「一物多価」問題は、早晩に是正されることが望ましいということになります。ただ、この時に注意すべきは、単純に「一物多価」が悪いわけではないということです。同じ商品でも販売店によって価格が異なるのは、他のの商品でも当たり前に起こっていることだからです。問題は、信託報酬の差に対して“合理的な説明”が可能かどうかでしょう。
例えば、ネット販売専用ファンドと対面販売専用ファンドで信託報酬が異なるのは、店頭で丁寧な商品説明や運用に関するコンサルティングを行うという付加価値を提供しているのなら、その価格差は許容されるはずです。一方、同じネット販売専用ファンドでであるにもかかわらず信託報酬に差がある場合は、どのような合理的な説明ができるのでしょうか。結局、インデックスファンドの「一物多価」問題というのは、価格相応の“付加価値”を販売会社が提供できているのかということに尽きるわけです。
こうした問題を考えると、そもそも現在の投資信託のコストの決め方に妥当性があるのかという根本的な問題に行き着きます。信託報酬は委託会社(運用会社)、受託会社(信託銀行)、販売会社(証券、銀行など)それぞれの手数料を合算してあらかじめ決定されています。マザーファンドが同じインデックスファンドの場合、価格差に対する合理的説明を可能とする付加価値を提供できるのは販売会社でしょう。だとするならば、思い切って信託報酬から販売会社の取り分を除外し、さらに自由化してしまえばいいのです。
その上で同じマザーファンドのインデックスファンドの信託報酬のうち、委託会社と受託会社の取り分に関してはできるだけ同一になるようにする。そのためにはベビーファンドの統廃合も一つの手段でしょう。そして、販売会社はそれぞれが提供する付加価値に応じて自由に手数料を決めればいい。ネット販売で徹底的に低コストにこだわるも良し、充実したコンサルティング機能を提供することでラグジュアリー路線を追求するも良し。あとは消費者は自由に選択すればいいわけです。
もちろん、実際には様々なテクニカルなハードルがあるでしょうから、早急に問題が是正されるとは考えにくい。ただ、日経新聞の記事にもあるように、インデックスファンドの低コスト化によって運用会社や販売会社の事業の持続性という問題も考えざるを得ない状況になりつつあるのも事実。そろそろ抜本的な改革を考えてみる時期なのではないでしょうか。
【スポンサードリンク・関連コンテンツ】