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2021年3月7日

退職に備えた貯金を始めるのは40歳以降でかまわない?

 

リタイア後に備えた貯蓄や投資など資産形成はできるだけ若いうちに始めた方が良いと言われるのですが、米国で「若年層は40代になるまで退職に向けての貯蓄を始める必要はない」という研究結果が登場しました。


なかなか意外な感じのする研究で、興味深いものがあります。確かに一理ある見解だからです。では日本の場合、退職に備えた貯金を始めるのは40歳以降でかまわないのでしょうか。

このほど全米経済研究所(NBER)がまとめた論文「Is Automatic Enrollment Consistent with a Life Cycle Model?」は、従来のような「物質的な消費から人生のトータルの満足度」を見るのではなく、「お金が必ずしも満足感と等しいとは限らない」という考え方に重点を置いているとのことです。これは早くから老後資金を準備することを批判する際によく登場する古典的な考え方で、「若い時にしか経験できないことがあるのだから、それにお金を使うべき」「若いうちは自己投資するべし」「年を取ってからお金を持っていても、体力や健康が損なわれているかもしれない」という考え方です。

ただ、NBREの研究がユニークなのは、こうした考え方を経済学的なモデルで分析したことでした。モデルの前提は「1995年生まれのミレニアル世代の人物が、25歳で就職して、67歳で退職」「連邦および州税が27%、インフレ率2%、標準的な社会保障給付も想定し、雇用主が50%を負担して、従業員は賃金の最大6%を拠出する401(K)の効果も考慮」となります。そして、実際に何歳から貯蓄を始めれば満足度が最大化するのかということを考察したわけです。その結果、貯蓄を始めるのは40歳以降が最適という結果になりました。

なかなか面白い結果です。確かに収入が多くない時期に過剰貯蓄するのは生活の質を低下させてしまう恐れがあります。「若い時にしか経験できないことがあるのだから、それにお金を使うべき」という忠告は、それなりの妥当性があるわけです。とはいえ、やはり論文の結果を100%信じるのも考えものでしょう。なぜなら、記事にもあるように論文は「将来の賃金の不確実性、例えば失業や出産などについては考慮していない」からです。また、前提とする社会保障制度の先行きも怪しいものです。

もうひとつ日本人が注意すべきは、この論文のモデルが米国の大卒者だということです。米国は日本以上に学歴社会ですから、大卒者と非大卒者の賃金格差が(昇給率も含めて)非常に大きい。大卒者は40歳以降に貯蓄を始めても大丈夫という考え方の前提は、40歳以降に収入がかなり増えるので、それからがっつり貯蓄できるということを意味します。では現代の日本の場合はどうか。かなり怪しいのでは。ちなみに論文では米国の高卒者は賃金上昇がもっとフラットなので、30代から貯蓄を始めた方が良いとしています。日本人の場合、案外とこちらの方が参考になるのかもしれません。

結局、何歳から貯蓄を始めるべきなのでしょうか。論文の著者たちには申し訳ないですが、やはりできるだけ早い時期からスタートした方がよさそうというのが個人的な感想です。なぜなら、生身の人間は経済学のモデルが前提とするような完全に合理的な存在ではないからです。40代から貯蓄するのが最適だとしても、それまで貯蓄も投資もしたことがない人が、いきなり40代に入ってから貯蓄や投資を始められるわけがない。貯蓄も投資も結局は習慣だからです。やはり記事にもあるように「若いうちに貯蓄する習慣ができると、中年期での貯蓄がやりやすくなる」という効果は極めて大きいのです。

とはいえ、あまり若い時から過剰に貯蓄するのは人生トータルでの満足度にはマイナスに働くという研究結果は、やはり意味ある指摘だと思います。そう考えると20代の間は、まずは少額でいいので貯蓄や投資を始めて“習慣”をつけることを目指すのが実戦的な一手ということになりそう。その上で30代以降に資産形成を徐々に本格化させていけば、ある程度はバランスがとれそうです。そういったバランス感覚を身に着けることが、それこそ40代までのしなければならないことの本筋なのかもしれません。




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