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2020年1月19日

インデックス投資家における新派と旧派―「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2019」雑感



「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2019」の表彰式が1月18日に開催されました。今回は妻とミュージカルを観に行く先約があったので参加できませんでしたが、参加者によるTwitter実況などで大いに楽しんだ次第です。今回の投票の結果にも、いろいろと考えさせられました。ラインクインしたファンドはいずれも良質な素晴らしいファンドばかりですが、中でも投票している個人投資家、とくにインデックス投資家の裾野の広がりがファンドの評価軸にも微妙な差を生んでいるように感じられ、非常に興味深かったです。

今回の「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2019」の結果は以下のようになりました。

1位 eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)
2位 eMAXIS Slim米国株式(S&P500)
3位 eMAXIS Slim先進国株式インデックス
4位 <購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド
5位 eMAXIS Slimバランス(8資産均等型)
6位 楽天・全米株式インデックス・ファンド
7位 セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド
7位 グローバル3倍3分法ファンド(1年決算型)
9位 バンガード・トータル・ワールド・ストックETF(VT)
10位 SBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンド

第一印象は“「eMAXIS Slim」シリーズ強し!”でしょう。1位から3位まで独占した上に、上位10ファンド中4ファンドを占めています。「eMAXIS Slim」の独壇場を辛うじて防いだのが「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックス」です。これが何を意味しているかは明白です。やはりインデックスファンドにとって「コストの安さ」というのは“絶対的な正義”であるという厳然たる事実です。インデックスファンドというのは運用精度や経費など若干の品質差を除くと基本的に同じ指数に連動するファンドは同じ運用成績となりますから、どうしてもコストの安いファンドが優れたファンドとなるというのは当たり前のことなのです。

もうひとつ大きな特徴は、1位に全世界株式インデックスファンドが入り、7位と9位も全世界に分散投資するファンドが入り、そして日本株式インデックスファンドは1本もランクインしていないことです。つまり、インデックス投資をコアにする個人投資家の多くは、すでにカントリーバイアスから卒業しており、国際分散投資が当たり前になっているということです。この事実を前にすると、よくインデックス投資を批判する際に登場する「日本の株価指数は30年間上がっておらず、これからも上昇は期待できない」といった指摘は、すでに一昨日の議論であって、極めて遅れた認識による批判だということが分かります。

一方で対照的な現象も起こっています。2位、6位、10位と米国株式インデックスファンドが3本もランクインしました。国際分散投資が当たり前になる中で、それとは相反する米国株式への集中投資も支持を集めているのです。これもまた今回のFOYの大きな特徴です。私はここにインデックス投資家における“新派”と“旧派”とでもいべき認識の差を感じました。リーマン・ショック以後の10年間、世界の株式市場をリードしたのは、明らかに米国株式でした。GAFAに代表される米国のハイテク企業の社会インフラにおけるヘゲモニーもますます強まっています。こうした中、リーマンショック以降に投資を始めた人にとっては米国株式の優位性は自明のものに感じられるし、ポートフォリオにおいてオーバーウエートを選好するのは自然なことです。いわばインデックス投資家における“新派”とでも呼ぶべき人たちが米国株式インデックスファンドを支持しているのではないでしょうか。

一方、リーマンショック以前からインデックス投資をスタートしている人たちは、その経験に裏付けられた強固な慎重さがあります。それは「相場の未来は予測できない」という感覚です。過去の実績と将来の予想を厳密に峻別する人たちは、やはり特定の国や地域を特別視しない堅実さを持つわけです。そういったインデックス投資家における“旧派”ともいうべき人たちが米国株式インデックスファンドよりも全世界株式インデックスファンドや先進国株式インデックスファンドを選好しているのでしょう(ただし、旧派も米国株式の強さを無視しているわけではありません。だからこそ内実としては米国株式が大きなウエートを占める全世界株式や先進国株式のインデックスファンドが評価されているともいえるからです)。

インデックス投資家における新派と旧派の違いは、同じ資産カテゴリーのインデックスファンドの評価軸にも微妙に影響しているのかもしれません。それは「eMAXIS Slim」シリーズが強さを発揮する中で、ひとり気を吐いている感のある「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」の存在です。なぜ「<購入・換金手数料なし>ニッセイ」シリーズが根強い人気を維持しているのか。それは信託報酬の引き下げを常に“能動的”に行っているからでしょう。これは「eMAXIS Slim」シリーズの信託報酬引き下げが常に他のファンドに追随する形で“受動的”に行われていることと大きな違いです。

日本ではかつて既存のインデックスファンドの信託報酬が引き下げられるということがほとんどありませんでした。低コスト競争も常に新規ファンドの立ち上げによって既存ファンドの受益者を切り捨てる形で行われてきました。このため古参のインデックス投資家は断続的に購入ファンドの乗り換えを強いられててきたのです。そうした日本の投資信託業界の悪弊に対するアンチテーゼとして、純資産残高が増加すれば信託報酬を引き下げることが一般化した米国ETFへの評価へとつながり、その象徴がバンガードのETFでした。

そうした中、「<購入・換金手数料なし>ニッセイ」シリーズはに日本で既存ファンドの信託報酬を“能動的”に引き下げていくことを定着させたファンドです。これに対抗して「eMAXIS Slim」シリーズが“新規設定”によって登場し、信託報酬を“受動的”に引き下げることで現在の低コスト競争を成立させているわけです。そしてインデックス投資家にける旧派は「<購入・換金手数料なし>ニッセイ」シリーズがやってきたことと歴史的意味と“能動性”を評価しているのでは。それが根強い人気の秘密のように思えます。さらに旧派の中には、「eMAXIS Slim」シリーズの隆盛の後ろで、既存の「eMAXIS」シリーズが割高な信託報酬のままで放置されていることが喉の奥に刺さった小骨のように感じている人も少なくないかもしれません(何を隠そう、私自身がそうですから)。この点を考えると、「eMAXIS Slim」シリーズを運営する三菱UFJ国際投信が次にするべきことは明確でしょう。昨年の三菱UFJ国際投信ブロガーミーティングで私は同社の代田秀雄常務に「いずれ『eMAXIS Slim』と『eMAXIS』を合併してはどうか。その瞬間、三菱UFJ国際投信は日本のインデックスファンド分野で絶対的頂点の地位に立てますよ」と提言したことがあります。今回のFOYの結果を見ても、その考えを改めて強くしました。

もちろん「eMAXIS Slim」を選択する人が悪いというのではありません。ファンドはしょせん資産形成のためのツールにすぎません。ツールに過剰な歴史的意味合いや業界構造における位置付けに基づく評価をするのはマニアだけであり、普通の個人投資家にとっては意識する必要ないことだからです。米国株式を選好することについても同様です。だから、ここで書いた「新派」「旧派」という区分も、そこに価値判断上の優劣はありません。あくまでFOYを批評するための道具立てにすぎません。しかし、FOYは単純に信託報酬の安さだけを評価するイベントではないのも事実です。FOYの目的はイベントの趣旨である「自分たちにとって本当によいと思える投資信託とは何か」を吟味することにほかなりません。そういった“読み”が可能なところもFOYの意義でしょう。

その点で最後に指摘しておきたいのが、「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」が7位に入ったことの意味です。インデックスファンドの中では古豪ともいえる存在ですが、その人気は根強く、独自の地位を気づいていることが明白になりました。ここには信託報酬の安さや投資対象のトレンドを超えて、歴史的評価を伴った「自分たちにとって本当によいと思える投資信託とは何か」に対する一つの答えがあるような気がします。超低コストインデックスファンドや米国株式インデックスファンドが上位を独占する中、かえって「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」の存在が奇妙な輝きを放っています。それもまた今回のFOYで印象に残った風景でした。



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