年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2019年度第1四半期(4~6月)運用状況が発表されましたので定例ウオッチです。4~6月の期間収益率+0.16%、帳簿上の運用益は+2569億円でした。市場運用開始来の収益率は年率+3.00%となり、運用資産額は159兆2133億円となりました。
2019年度第1四半期運用状況(速報)(GPIF)
決して好調とは言えない市場環境に中で踏みとどまったという印象です。やはり国際分散投資の堅実さは健在です。
2019年4~6月は国内の株式市場が非常に低迷しました。このため資産別収益率でも国内株式は-2.31%(-8926億円)と減少しましたが、米国での金融緩和への期待から米国株・欧州株が大きく上げています。このため外国株式は+1.29%(+5413億円)となり、金利低下で債券価格も上昇したことで国内債券が+0.81%(+3393億円)、外国債券が+0.94%(+2686億円)となりました。国内株式の低迷をその他の3資産の上昇で補った形です。まさに国際分散投資によるリスク低減効果が出ていると言えるでしょう。GPIFの髙橋則広理事長のコメントです。
2019年度第1四半期(4月~6月)は、米国連邦準備制度理事会(FRB)が金融緩和姿勢を示したことなどから、米国・欧州市場において、金利は大幅に低下し、株価は上昇しました。一方で、為替は内外金利差の縮小が見られるなか、対ドル・対ユーロ共に円高が進行しました。このような結果、4月から6月までの運用資産全体の運用実績はプラス0.16%となりました。また、利子・配当収入が1兆1041億円あったことも注目です。投資収益は証券価格変動+利子・配当収入から生じますが、買い持ち戦略による長期投資になればなるほど利子・配当収入の重要性が高まってきます。パッシブ運用を中心とする究極の長期投資家であるGPIFの運用においても確実に利子・配当収入が運用を下支えする構造になっていることがよくわかります。
ただ、7月以降は世界的に株価が大きく下落していますから、GPIFにとっても第2四半期は厳しい局面が予想されます。そうなると再びメディアなどで騒がれると思いますが、ぜひとも慌てることなくどしっと腰を据えてこれまでの運用方針を堅持してもらいたいと思います。また、国民もメディアに惑わされることなく、日本の年金制度の全体像を把握する必要があるでしょう。例えばGPIFの運用ですら公的年金制度全体で見れば、資金のごく一部である“調整弁”に過ぎないことを忘れてはいけません。参考までに厚労省が発表している公的年金全体の資金の流れを紹介しておきます。
公的年金全体の資金の流れ(厚生労働省)
これを見れば、公的年金の維持にとってもっとも大切なことは保険料収入を増やすことです。すなわちそれば失業率を下げる、経済成長によって加入者(労働者)の収入を上げることでしか実現しません。そして、その実現には時間がかかります。その間の時間稼ぎのための調整資金こそがGPIFの役割なのです。さらに付け加えると、“脱・成長論”や“デフレ礼賛論”などは公的年金制度を即死させる議論だということも強調しておきたいと思います。
【ご参考】
日本の社会保障制度について勉強するなら、権丈善一先生の『ちょっと気になる社会保障 増補版』が最良の入門書です。また、現在の公的年金制度を徹底的に利用するための戦略書として田村正之さんの『人生100年時代の年金戦略』が非常に網羅的にまとめられていてお勧めです。
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