2月に結婚して転居したこともあり、住所変更の手続きや確定申告などでここ数カ月は久しぶりに金融機関の口座の中身をすべて確認していたのですが、いろいろと感じることがありました。知らない間にお金が増えている口座があるのです。理由は簡単で、保有している個別株の配当金やETFの分配金が次々と振り込まれていたからです。非常に嬉しいことですが、同時にちょっと怖くなります。日本でも経済的格差が広がっているといわれるわけですが、これまでの格差などは序の口で、これから本物の格差社会がやってくるのではないかと思ったのです。
日本ではバブル経済崩壊以降、通常の労働収入がなかなか伸びない時代が続いています。一方、それまで軽視されていた企業の株主還元の姿勢が改められ、配当金の支払いは増加が続いています。私も加入している全労連がTwitterでそのことを指摘していました。
大企業の利益や株に資配当は大幅に伸びたのに、賃金だけは横ばいのまま、この流れを変えるためにも労働組合に入って声をあげよう! #MayDay #MayDay2019 #メーデー pic.twitter.com/GRRJSHavW1— 全労連 ZENROREN (@zenroren) 2019年4月4日
もちろん、この比較を鵜呑みにすることはできません。なぜなら賃金というのは、高額を受け取っていた高齢層がリタイアするなどで労働市場から退出し、同時に賃金が低い若年層が参入するという新陳代謝を毎年繰り返していますから、どうしても総額としては急激に伸びません。ただ、そういたことを考慮しても、やはりこの20年間は賃金よりも配当の伸びが圧倒的に大きかったということは、実感としてもよくわかります。日本ではこの20年間、投資をしていた人だけが資産形成・拡大できたという残酷な現実です。そして、この傾向が今後も続くことは、ほぼ間違いないでしょう。
そしてもうひとつ、注目すべき現象があります。徐々にですが日本の一般庶民の中でも投資をする人が増えているのではないかと思わせるデータです。
つみたてNISA口座数が開始1年で103万口座、一段の利用促進めざし様々な施策を展開中(モーニングスター)
iDeCoの加入者数は2月時点で118万人突破、前年同月比で1カ月当たりの加入者数が減少(同)
「つみたてNISA」は単年当たりの税制優遇枠は40万円と小さいですから大きな資金を投資したい人にはメリットの少ない制度です。iDeCoもまた税制優遇が実現するのは退職所得控除や公的年金等控除の枠内なので、収入の多い人にはメリットが小さくなる制度です。つまり、いずれも庶民のための優遇措置だといえる。そして、まだまだ絶対数は小さいけれども、確実に口座数の拡大が進んでいます。庶民の中で投資による資産形成に踏み出す人が確実に増加しているのです。
配当の増加と継続的に投資する庶民の増加という二つの現象が意味することは何でしょうか。それは今後、庶民の中でも投資を組み込んだ形で資産形成している人と、そうでない人との間で猛烈な経済格差が生じる可能性です。
日本も格差社会になっているといわれますが、世界的に見れはまだまだ格差の小さい社会です。なぜなら、日本で問題になる格差の多くは世代間で生じており、これはある意味で産業構造の変化の過程で生じる摩擦の問題だといえるからです。これに対し、これから起こるであろう格差は、同じような賃金収入を得ている同世代の中で資産形成している人とそうではない人との間に生じる可能性が高い。それこそが、本物の格差社会の到来です。
こうした本物の格差社会の到来は、日本の社会にますます大きな軋轢を生む可能性があるでしょう。私のような現在の現役世代は、ますます残酷な現実の中で生きざるを得ないわけです。結局、そのための処方箋は二つしかありません。一つは、どれだけしんどくても資産形成への自助努力を怠ってはいけないということ。もう一つは、やはり格差是正のための適正な再配分政策を求めることです。そして、それは政府にとっても同じです。優遇税制による資産形成の促進と適正な再配分を進めなければなりません。なぜなら、格差が拡大し続ける社会には“サスティナビリティ”がないからです。
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