SBI証券が個人型確定拠出年金(iDeCo)で従来プランとは別に新プラン「セレクトプラン」を新規設定し、2018年11月1日から受付を開始すると発表しました。
iDeCo(個人型確定拠出年金) 新プラン設定のお知らせ(SBI証券)
SBI証券のiDeCoは運営管理手数料が無料であるほか、従来プラン(「オリジナルプラン」)も低コストなインデックスファンドをそろえるなど高い競争力を持っていたのですが、新たに設定する「セレクトプラン」は、さらに徹底した低コストインデックスファンドと人気アクティブファンドをラインアップしたものとなっています。現段階では最強ラインアップと言っていい商品構成となりました。これからiDeCoに加入しようと考えている人にとっては、最有力の選択肢となるでしょう。
「セレクトプラン」の商品ラインアップは以下のようになっています(2018年9月27日現在)。
最大の特徴は、ポートフォリオのコアとなる国内株式と先進国株式のインデックスファンドに激烈な低コスト競争を続けているニッセイアセットマネジメントの「<購入・換金手数料なし>」シリーズと三菱UFJ国際投信の「eMAXIS Slim」シリーズをラインアップしたことです。また、そのほかの資産クラスも、信託報酬がクラス最安値水準の商品が用意されおり、徹底して低コストにこだわるという志向が鮮明です。
また、全世界株式も「eMAXIS Slim」のほかSBIアセットマネジメントの「雪だるま」シリーズが投入されおり、バランスファンドには大和証券投資信託委託の「iFree年金バランス」といったユニークなファンドもあります。近年、人気が高まっている米国株式インデックスファンドはも「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」と「iFree NYダウ・インデックス」を用意するなど抜け目がありません。さらに直販系投信会社の商品としてセゾン投信の「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」「セゾン資産形成の達人ファンド」、レオス・キャピタルワークスの「ひふみ年金」をラインアップに加えたことにも驚きました。
まさにSBI証券が言うように「低コスト」と「多様性」というコンセプトがよく表れた商品ラインアップです。インデックス投資ブロガーあたりに「僕の考えた最強iDeCoラインアップ」を聞けば、恐らく今回の「セレクトプラン」に近い内容になるのでは。これだけ隙の無いラインアップを選ぶのに、インデックス投資ブロガーや投信ブロガーがアドバイスしたのではないかと思ったぐらいです。
もともとSBI証券のiDeCoプランは非常に優れたプランでしたが、最近では楽天証券や松井証券、マネックス証券なども低コスト商品をそろえたプランでiDeCoに参入したことで、SBI証券もやや守勢に回っている印象がありました。しかし、今回の「セレクトプラン」の登場で一気に逆襲に出たということでしょう。まさに現段階で“最強ライアンアップ”と言える内容ですから、これからSBI証券のiDeCoに加入しようとしている人は、よほどの理由(例えば、どうしても「EXE-i新興国株式」を買いたいなど)がない限りは「セレクトプラン」の一択と言えるのではないでしょうか。
他社のiDeCoプランやSBI証券の既存プランに加入している人は移換するべきなのか
SBI証券の新iDeCoプランは素晴らしいプランですが、それでは既に他社のiDeCoプランやSBI証券の既存プランに加入している人は移換するべきなのでしょうか。じつはこの点はやや難しい問題を秘めています。
まず、他社のiDeCoプランから移換する場合、移換手数料がかかります。また、移換に際して手続きに2~3カ月必要で、その間は資産がすべて現金化され、運用が一時的に停止します。この点を踏まえると、とくに楽天証券や松井証券、マネックス証券といった既に低コスト商品をそろえているiDeCoプランに加入している人は、資産総額や加入期間とコスト差の関係をよく吟味して、移換によってどれだけメリットがあるのか見極めることが必要でしょう。
一方、私もそうなのですが、SBI証券の既存プラン加入者はどうするべきか。これも微妙な問題です。同じ証券会社のプランへの移換でも、国民年金基金連合会やレコードキーピング機関を含むシステムの関係上、やはり別の金融機関のプランに移換するのと同様の手続きとなります。移換手数料こそ無料ですが、やはり移換手続きの期間中、資産は現金化されて運用が一時停止となります。このあたりをどのように考えるか。
なぜこんなことを言うのかというと、iDeCoの移換に関しては個人的に嫌な思い出があるからです。運用が一時停止することで一番心配なのは、その間に相場の急変することでなのです。この点に関しては以前にブログで紹介しました。
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ですから、SBI証券の既存プラン加入者が新プランに移管する場合も、しっかりと考えて、思わぬ機会損失に遭遇しても後悔しないように納得も得心もした上で手続きすることが大切になります。
さらに言うと、魅力的なプランが登場するたびに移換するというやり方が、はたして長期的に成り立つのかという根本的な問題があります。もともとiDeCoは商品ラインアップの入れ替えが非常に難しいで制度です(例えば商品をラインアップから除外する場合、受益者の賛同を取り付ける必要がありますから)。このため“後出しジャンケン”が極めて有効になる。つまり、後発で参入した金融機関が常に最も魅力的な商品ラインアップをそろえることができるということです。
実際にiDeCoに早くから参入していたSBI証券が、楽天証券や松井証券、マネックス証券などの追い上げに直面したのもこのためでした。そして現在、法律改正によって商品数は35本までという上限規制も課せられたことで、“後出しジャンケン”戦略の有効性が一段と高まっていました。そうした中、SBI証券がとった対抗策が新プランの設定という方法で“後出しジャンケン”する戦略だったわけです(ちなにみ、この戦略は既に大和証券や野村證券、第一生命なども採用しています)。
このことを考えると、今後はSBI証券に対抗して他の金融機関もさらに魅力的な新プランを設定する可能性が出てきます。では、そのたびに新しいプランに乗り換えるべきなのでしょうか。私は、それはあまりスマートではないと思う。かえって手数料負担が大きくなったり、余計な機会損失のリスクを抱え込んでしまうからです。それよりも現在の低コスト競争というのは、いわば頂上決戦ともいうべきハイレベルな争いですから、そこでの微細なコスト差などは誤差の範囲だと割り切るのも間違いでないと思う。iDeCoのように金融機関やファンドの乗り換えに制約のある制度は、よほど大きなコスト差がない限りは、あえて動かいないというのも立派な投資戦略ではないでしょうか。個人投資家の場合、あまりに最適解にこだわりすぎるとかえって運用効率を損ねるということが往々にしてありますから。
私自身もSBI証券の既存プランに加入しているわけですが、「セレクトプラン」に移換するかどうかは、慌てずにじっくりと考えてみたいと思います。※ちなみに、給付時の優位性という面では、依然としてSBI証券のプランは楽天証券や松井証券、マネックス証券のプランと比べて劣後しています。受け取り方式がSBI証券は一時金か年金のどちらかしか選べませんが、楽天証券や松井証券、マネックス証券は併用が可能。これは給付時の課税控除に大きな影響を及ぼしますから、極めて大きな差です。iDeCoの金融機関やプランを選ぶ際は、こうした点も考慮することが重要です。
【ご参考】
iDeCoは金融機関によって手数料や商品ラインアップが異なります。現在、iDeCoプランの選択肢としてお薦めなのは運営管理手数料が無条件無料で低コストインデックスファンドをそろえるSBI証券、楽天証券、マネックス証券、イオン銀行、松井証券です。iDeCoへの加入を検討している人は、これら金融機関のプランを研究することをお勧めします。いずれもネットから無料で資料請求できます。⇒SBI証券確定拠出年金プラン、楽天証券確定拠出年金プラン、イオン銀行確定拠出年金プラン、マネックス証券確定拠出年金プラン、松井証券確定拠出年金プラン
また、iDeCoは、やや制度が複雑なので解説書を読んで研究するのも良いでしょう。解説書としては大江英樹さんの『はじめての確定拠出年金投資』山崎元さんの『確定拠出年金の教科書』『シンプルにわかる確定拠出年金』竹川美奈子さんの『一番やさしい! 一番くわしい! 個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)活用入門』田村正之さんの『はじめての確定拠出年金』大江加代さんの『図解 知識ゼロからはじめるiDeCo(個人型確定拠出年金)の入門書』を挙げておきます。
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