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2018年1月29日
FXなど通貨取引が個人投資家の資産形成に適さない理由(附・参考図書紹介)
あいかわらず仮想通貨が話題ですが、こうした景色を見ていると仮想通貨に限らず通常のFXなども含めて「ほんと、日本人は通貨取引が好きなのだなぁ」と思ってしまいます。いまだに「投資をしている」とかいうと「FXですか?」と聞かれることがありますから。しかし、FXなど通貨取引こそ個人投資家の資産形成には最も適さないというのが私の考え。なぜなら、そもそも通貨取引(交換)は「投資」ですらないからです。
FXなど通貨取引が個人投資家の資産形成に向かない理由は多々あるのですが、ひとつは時間的制約で不利だということ。通貨取引は世界中で行われているので、ほぼ365日24時間市場が開いている。個人投資家の多くは投資活動以外に本業に割かなければならない時間がありますから、この段階で既にプロのトレーダーに対して不利な戦いを強いられます。おまけに市場へのインパクトは欧米での出来事の方が大きいですから、日本のプレイヤーには時差という物理的な壁が立ちはだかります。
もっと直截的な理由は、それが個人の「クオリティ・オブ・ライフ(QOL=生活の質)」を著しく低下させることです。通貨取引は基本的に短期売買で利ザヤを抜くのが目的ですから、どうしても市場に張り付いていないといけない。結局、プライベートの時間もトレードに充てることになり、これがQOLの劇的な低下をもたらす。夜も休日も取引にかかりっきりになってしまいシンドイのです。何のために取引をして稼いでいるのか分からなくなるわけで、実際に私の知り合いにもFXに熱中していたのにやがて止めてしまった人がいましたが、FXから卒業した理由のほとんどは損をしたからではなく、QOLの低下で馬鹿らしくなったというのが多い。比較的勝っていたプレイヤーほど、この傾向が強いです。
また、本格的に通貨について勉強すればするほど、通貨取引で長期的に利益を出すのが極めて難しいことにも気づきます。そもそも通貨取引は「投資」ではないのです。なぜなら、「投資」というのは、なんらかの「価値」に対して資金を投じる行為ですが、「通貨」そのものには「価値」がないから。「通貨」は何らかの「価値」の表象であり、その価値のの保存・交換手段に過ぎないのです。だから値動きにファンダメンタルによる裏付けもないわけで、投資対象として考える際に必要な値付けの理論も確立していません。結局、通貨取引で儲けるというのは当てモンの世界で、ギャンブルと同じということに気づきます。
ちなみに、FXも短期売買ではなく長期で保有すればいいという考え方がありますが、これも通貨の本質を理解していれば「投資」にならないということに気づきます。通貨の交換は基本的に通貨間のインフレ率や金利差などすべての情報を含む価値表象の等価交換です。当然、短期ではそこに歪みもありますから、これが短期売買の利潤を生む。しかし、長期保有すると市場で裁定取引が繰り返されることで大数の法則が働き、基本的に通貨間の価値表象は一物一価の状態に収斂していきます。これは経験的にも分かる話では。例えばFXで大きな含み損を抱えた人がずっと塩漬けにしているとやがてスワップ収入込みで収益がプラスマイナスゼロの状態になったり、あるいは逆に含み益があっても時間の経過とともに通貨の下落でやはり損益ゼロの状態になるケースを経験した人も少なくないのでは。そして、通貨の交換は基本的に等価交換ということは長期には期待収益率ゼロ(実際は取引手数料分だけマイナス)ということです。
こう考えるとFXなど通貨取引ほど個人投資家の資産形成に適さないものはありません。もちろん、趣味で取引するのは問題ありません。大いに楽しめばいいのです。しかし、資産形成を目的とするなら、やはり株式や債券、不動産といったそれ自体が「価値」を持つ「資産」に資金を投じるべきです。それが「投資」であり、QOLを損なうことなく長期にはプラスのリターンをもたらす可能性があるからです。
さて、最後に通貨について理解を深めるために役に立った本を紹介しておきます。まずFXがなぜ「投資」ではないのかという点に関しては富田公彦『なぜ専門家の為替予想は外れるのか』が非常に面白い。為替取引のプロが書いた「不都合な真実」がてんこ盛り。これを読んでFXに対する関心が一気に失せました。ある意味、これを読んでも「FXをやりたい!」と感じる人だけがFXに挑戦する資格があるとすら思えるほどです。
為替の変動にはファンダメンタルの裏付けがありませんが、ではなぜ変動するのか。そのメカニズムについて非常に納得できる解説をしているのが佐々木融『弱い日本の強い円 』。この本に関しては以前にもブログで紹介しているのでそちらも参照ください(『弱い日本の強い円』-日本人の国際分散投資にとって最大の敵は為替)。
最後に、そもそも「通貨」あるいは「貨幣」とは何なのかという本質的な問いについて考える場合、必ず読んでおくべき1冊が岩井克人『貨幣論』。貨幣は貨幣として流通しているから貨幣なのだという循環論法の意味は、仮想通貨などの登場でよりアクチュアルな意味を持つようになったのでは。私がこの本を読んだのは学生時代ですが、いま一度、もっと力を入れて再読しようと思っています。
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