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2017年9月19日
"顔の見える投信"の真価が問われるのは下落相場のとき
少し前の日経新聞に面白い記事が載っていました。
顔の見える投信、運用大手も続々 責任者が発信、個人客つかむ(「日本経済新聞」電子版)
大手の運用会社がファンドマネージャーの存在を前面に打ち出したアクティブファンドを設定する動きがあるとのこと。ファンドマネージャーが受益者と直接対話する機会を増やすことで投資家の心をつかもうということです。こうした動きは歓迎するべきことでしょう。ただし、運用会社が"顔の見える投信"を運用するということは、じつは非常に厳しい覚悟が必要だということを自覚するべきです。なぜなら、"顔の見える投信"の真価が問われるのは、現在のような好調な相場環境の時ではなく、それこそ激しい下落相場に直面したときだからです。
記事では大手運用会社による"顔の見える投信"として、ニッセイアセットマネジメントの「げんせん投信」と、アセットマネジメントOneの「厳選ジャパン」が紹介されています。「げんせん投信」は専用サイトまで用意し、運用責任者の伊藤琢チーフ・ポートフォリオ・マネジャーが前面に登場しています。「厳選ジャパン」も販売会社であるSBI証券のサイトに専用ページが用意され、岩谷渉平ファンドマネジャーが登場します。
「げんせん投信」(ニッセイアセットマネジメント)
「厳選ジャパン」(SBI証券)
こうした動きの背景にあるのが、「ひふみ投信」に代表される独立系運用会社の成功だとか。そこで大手運用会社も、それにならったということです(ちなみに「げんせん投信」の伊藤琢氏は元レオス・キャピタルワークスですから、「ひふみ投信」の藤野英人さんの弟子筋にあたります)。そういった後追い戦略の是非は別として、基本的にファンドマネージャーが直接に受益者とコミュニケーションを図ろうとするのは非常に良いことだと思う。
そもそもアクティブファンドというのは、あくまでファンドマネージャーの投資哲学や戦略を信頼して購入するものですから、日本の大部分のアクティブファンドのように誰がファンドマネージャーなのか分からない方が異常だったのです。ちなみに米国では目論見書にファンドマネージャーの情報を記載するのが当たり前です。
その意味で今回の動きは個人投資家としても歓迎すべきことなのですが、ちょっと心配なことも。それは、大手運用会社が"顔の見える投信"を運用するということに関する厳しい覚悟を自覚しているのかということです。
なぜなら、"顔の見える投信"の真価が問われるのは下落相場のときだから。相場が好調で利益が出ているときは受益者もごきげんでファンドマネージャーの話を聞くでしょう。ところがいったん相場が大きく下落し、受益者の多くが損失を抱えたときにどうなるか。そこでファンドマネージャーのカリスマ性が問われる。いかに受益者を納得させ、解約を減らし、資金流出を抑えることができるのかが重要になります。
それは非常に厳しい仕事です。損をした受益者の中には、ファンドを批判する人も出てくるはず。このとき、"顔の見える投信"というのは、ファンドマネージャーが矢面に立たなければなりません。場合によっては信じられないような罵詈雑言を投げつけられるケースだってあります。例えば「ひふみ投信」の藤野英人さんですら、かつて運用していたファンドが低迷した際には無茶苦茶に批判されていました。そのことを今でも覚えていて、いまだに批判を続けている人もいます。
"顔の見える投信"というのは、それほどファンドマネージャーにとって厳しい側面があるのです。しかし、受益者にとって大切なお金を託されているわけですから当たり前の話です。はたして大手運用会社のファンドマネージャーに、それに耐えるだけの覚悟があるのかが問われます。彼らもサラリーマンですから「大変な仕事を担当させられたな」と、ちょっと同情してしまいました。
だから、大手運用会社による"顔の見える投信"が成功するカギは、いかに相場が低迷したときでも受益者との信頼関係を維持できるだけのコミュニケーションを確立できるかにかかっていると思う。そのとき、ポイントになるのは"儲けること以外の魅力や付加価値"をどれだけ提供できるかではないでしょうか。
実は独立系運用会社の成功の秘密は単に運用成績が良いだけでなく、ファンドマネージャーと交流することで受益者に"儲けること以外の価値"を提供しているところにあるのです。もっとも、だからこそ「アクティブファンドは宗教だ」と批判されるわけですが。
はたして今後、大手運用会社が"顔の見える投信"を通じて、どんな"儲けること以外の魅力や付加価値"を提供するのか非常に興味があるところです。
※蛇足かもしれませんがちょっとだけ批判も。「げんせん投信」は信託報酬(税抜)0.925~0.72%+監査費用0.0108%以内と比較的良心的ですが、「厳選ジャパン」は信託報酬(税抜)1.54%と高すぎ。これでは受益者の心はつかめませんよ。独立系運用会社の人気のもうひとつの理由は、アクティブファンドの中では相対的にコストが低いことがあるのですから。
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