世の中は複雑ですから、ものごとが成功に至る道筋はひとつだけでありません。ただ、大きく分けるならば、正しい道順を経るなら誰もが実践できる「王道」と、卓越した才能や技量、そして運を持つ人だけが歩むことのできる「覇道」があるといえそうです。これは投資や資産運用でも同じでしょう。では投資における「王道」と「覇道」とは、どういったものでしょうか。この点に関してモーニングスターの朝倉智也社長と、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック・グローバル・インベスターズ)日本法人の元社長である岡本和久さんがそれぞれ非常に分かりやすい記事を書いていました。
「マイナス金利」でも資産運用の王道は変わらない!(Yahoo!ニュース)
「難しい投資とやさしい投資」(岡本和久のI-OWA日記)
なんら目新しい内容はなく、極めて常識的な内容なのですが、それが「王道」の「王道」たる所以です。王道を歩むのに特殊な技量や才能は必要ありません。ただ、物事の是非を合理的に判断し、行動するだけです。そして王道を歩むには時間がかかるということも忘れてはいけない。だから、「待つ」ことがとても大切なのです。
投資や資産運用における「王道」とは、結局は「長期分散投資」ということです。一方、FXや株の短期売買は、特殊な技量や才能、そして運が必要な方法ですから「覇道」だといえる。なにより、短期売買による投資は、ゼロサム・ゲームだからです。朝倉さんは次のように指摘しています。
円を売って、ドルを買うといった、どちらか一方の通貨の上昇を期待して取引を行う為替取引は、その通貨が長期で保有すれば期待収益がプラスになるというものではなく、勝ち負けが表裏一体で存在するゼロ・サムゲームだ。これは株の短期トレード出も同じでしょう。なぜなら株価の短期的な変動と、実際の企業価値の変化はまったく一致していないから。岡本さんは次のように指摘しています。
もっと言えば、その取引を仲介する業者が手数料を取り、結果的に期待収益がマイナスとなる、マイナス・サムゲームだ。これは、宝くじや競馬などで開催主が何割も取ってしまう構造と同じである。
長期投資家は企業を長い間保有して、その企業が成長するとともに自分の資産を増やしていきます。しかし、保有期間が短いほど、価値の増殖という裏付けのないと投資となってしまいます。つまり、短期投資であるほど自分が儲けるためには他の人を犠牲にしなければならないのです。つまり、ゼロサム・ゲームです。短期売買とは、自分が儲けるためには誰かが損しなければならないという厳しい現実がある。ゆえに「覇道」なのです。もちろん、自分が生き残るために他人が犠牲になることを是認する姿勢を批判はしません。犠牲になる人も自己責任によってゼロサム・ゲームに参加しているわけですから。
ただ、やっぱり「覇道」を歩むのはしんどいと思う。そもそも資本主義社会では、人々は実生活の中でかなり厳しい経済的競争を課せられているものです。そのうえ投資にまで苛烈な競争をするなど、普通の人ならとてもエネルギーがもちそうにありません。だから、投資をしていると本業がおろそかになったり、あるいは投資自体でポカしてしまうのは、根本的なエネルギーが足りないからでしょう。そうならないためには、やはり才能と運が必要なのです。しかも、いくら才能があっても、織田信長ではないですが「高転びに転ぶ」という危険性をつねに孕んでしまう。それもしんどいことです。
そう考えると、私は浅学非才の身なので、とても投資で覇道を歩もうという気にはなれません。やはり「長期分散投資」という王道を歩みたい。なぜなら、その方がしんどくないから。岡本さんは次のように指摘しています。
長期投資家はそのような難しい知識も必要ないし、複雑な取引も不要です。十分に分散された株式と債券を、適切な配分比率でじっと保有していればいいのです。時には短期間で大儲けしたなどという話を聞くこともあるでしょう。そのような人は単に運が良かっただけです。そこそこのリターンを長い期間積み重ねていけば最終的には大きな資産を手にすることができるのです。でも、長期分散投資を実行し続けることは、また別の難しさもあります。それは、長期投資家は異なるふたつの時間軸を生きなければならないということです。株価はめまぐるしく早いタイミングで変化します。しかし、企業価値の成長はおそろしくゆっくりしている。そして株価の変動はつねに目に入るけれども、企業価値の成長は具体的には見えにくい。だから、つい「待つ」ことができなくなる。長期投資の難しさとは、つまるところ「待つ」ことの難しさなのです。
しかし、「待つ」ことさえできれば、それは誰だって歩むことのできる道です。だから私は、ゼロサム・ゲームではなく、投資対象が成長するのを「待つ」ゲームを選択したい。なにごとも王道を歩みたいと思うからです。
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