シティグループが日本の個人向け事業から撤退することで今後の行方が注目されていたシティカードジャパンと「ダイナースクラブ」ブランドですが、日本経済新聞の記事によると三井住友信託銀行が買収交渉権を獲得したようです。新生銀行・JCB・三越伊勢丹連合の参戦など一時は興味深い展開もありましたが、(日経の記事が飛ばし記事でないなら)まずは本命に落ち着いたというべきかもしれません。では、三井住友信託銀行がシティカードジャパンの事業と「ダイナースクラブ」ブランドを取得した場合、どのような活用戦略がありうるのでしょうか。ちょっと考察してみました。
もともとこの話は、シティグループが日本での個人向け銀行事業撤退のためにリテールバンク部門とクレジットカード部門をセットで売却しようとしたところ、リテールバンク部門を買収することを決めた三井住友銀行がクレジットカード部門には興味を示さず、結局は別々に売却することになったことから始まりました。三井住友銀行が引き受けを拒否したクレジットカード部門に三井住友信託銀行が食指を伸ばすという構図は、今後の展開に関しても一定の示唆を与えてくれます。
そもそも三井住友銀行は、グループに日本におけるVISA陣営の総本山ともいえる三井住友カードを持ち、VJAの元締め的地位にありますから、シティカードジャパンの事業に興味あるはずがありません。また、VISA陣営として三井住友プラチナカードを発行していますので、いまさらダイナースクラブを手に入れるメリットはないと判断したのでしょう(逆にダイナースはコンペチタ―です)。
そして、三井住友信託銀行がダイナースに興味を示すのは、ちょうどこれと逆の構図のような気がします。三井住友信託銀行はグループに三井住友トラスト・カードがありますが、これはJVAのメンバーにすぎません。三井住友銀行と三井住友信託銀行は発足の経緯からそれぞれ独立して別の道を歩むことになったわけですが、ことクレジットカード事業に関しては三井住友信託銀行は三井住友銀行の風下に立たざるを得ず、主導権を発揮することが難しかったわけです。
まして今後、独立系メガ信託銀行として生き残るためにリテール事業は富裕層の囲い込み戦略が欠かせません。その重要なアイテムがプレミアムカードです。周りを見てみると、三井住友銀行と三井住友カードだけでなく、三菱東京UFJ銀行はグループ会社の三菱UFJニコス、みずほ銀行は資本提携するクレディセゾンという強力なクレジットカード会社を通じてプレミアムカードの発行を拡大しています。また、あまり目立ちませんが、地方銀行もJCBのFCとして「JCBザ・クラス」を発行し、地方の富裕層を囲い込んでいるようです。こうした構図を見ると、三井住友信託銀行がダイナースクラブに関心を示した理由が、なんとなく想像できます。
そしてこれも私の想像ですが、三井住友信託銀行がダイナースクラブを活用するとすると、その舞台はプロパーカードではなく、銀行提携カードのような気がします。現在もシティバンク銀行提携ダイナースクラブカードというものがあり、年間30万年以上の決済で年会費が無料になるという優れたサービスがあります。三井住友信託銀行に事業譲渡されれば、この延長線上に三井住友信託銀行(SMTB)提携の「SMTBダイナースクラブ」が登場してもおかしくありません。おりしも三井住友信託銀行は高額取引残高契約者に対する優遇サービスを「トラストプレミアムサービス」として一新しました。このあたりと絡めると面白い戦略も可能でしょう。例えば「ゴールドステージ」(取引残高1,000万円以上3,000万円未満)以上で年間100万円以上決済すれば提携ダイナースの年会費無料とか、「プラチナステージ」(取引残高3,000万円以上)なら事実上のブラックカードである「ダイナースクラブプレミアム」のインビテーションがもらえるとか。
といった感じで私のような素人でもいろいろと面白いアイデアが出てきますから、三井住友信託銀行にとってダイナースの活用戦略は大きな可能性を秘めているような気がします。ただ問題が一つ。ダイナースのブランド力がどこまで持続するか。というのもシティカードジャパンが最近、ダイナースカードを乱発しているのが気になります。身売り前に少しでも会員数を増やしておき、高く事業を売ろうというシティの戦略なのでしょうが、どうも“あとは野となれ山となれ”の“最後っ屁”ぽくて見苦しい。これではせっかくのダイナースのブランド力に傷が付きます。私のようなクレジットカードファンにとっては、やはりダイナースはいつまでも“憧れのブランド”であってほしいものです(逆にいうと、ダイナースを取得するのは今がチャンスかも。シティからすれば与信リスクは事業譲渡先に丸投げできるわけですから、審査が甘くなっている可能性があります)。
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