年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2022年度(22年4月~23年3月)の運用実績が発表されましたので定例ウオッチです。期間収益率は+1.5%、評価上の収益額は2兆9536億円となりました。これにより運用資産総額は200兆1328億円となり、初めて200兆円の大台を超えました。詳細は業務概況書で確認できます。
「2022年度業務概要書」GPIF
第3四半期(22年10月~12月)までマイナス収益が続いていましたが、第4四半期(23年1月~3月)に一気に挽回し、年度ベースでプラス収益を確保した構図です。23年度を振り返ると、やはり株式投資の重要性が再確認されたと同時に“安全な債券”神話が崩壊した年だったといえそうです。
2022年度は非常にボラティリティの高い市場環境となり、GPIFも第1四半期から第3四半期まで3四半期連続、2021年度第4四半期から累計すれば4期連続でマイナス収益となっていました。特にマイナスが大きかったのは国内債券と外国債券です。世界的なインフレ高進と、それを抑えるために日本以外の中央銀行が相次いで利上げに動きたことで債券価格が大幅に下落しました。このため資産資産カテゴリー別の収益率は通年度でも国内債券が-1.74%、外国債券が-0.12%となりました(外国債券が現地通貨ベースではさらに大幅なマイナスですが、円安で相殺されたことでこのレベルで落ち着いています)。
債券の下落を補ったのが株式への投資です。とくに国内株式は+5.54%と素晴らしい成績。今年に入ってからの日本株の好調が大きく寄与しています。また、外国株式は円安による円換算評価額上振れもあって+1.84%です。いずれも第4四半期に大幅な上昇となり、第3四半期までのマイナスをカバーしています。これにより、運用資産総額はついに200兆円を超えました。まさに分散投資の効果と言えるでしょう。
株式に投資することの重要性が明らかになったわけですが、これは同時に債券も決して安全資産ではないということを示しています。2022年のように世界的なインフレと金利上昇が起これば、債券への投資は非常なダメージを被るのです。よく「年金基金は安全な国債100%で運用するべき」といったことを主張する人がいますが、そういった“安全な債券”神話が崩壊したのが2022年だったわけです。
しかし、だからといって債券への投資が不要というの浅い考えです。現在のように金利が上昇している時こそ、新たに債券に投資する好機でもあります。なぜなら、いま購入する債券は、価格が安く高い利回りのある債券だからです。そして実際にGPIFは2023年度の国内債券を3兆224億円、外国債券を1兆5021億円それぞれ追加配分し、国内株式は2兆29億円、外国株式は1兆1945億円をそれぞれ回収しています。安くなった債券を購入し、高くなった株式を売却するリバランスを実施することでポートフォリオの基本資産配分を維持し、想定したリスク水準を守っているわけですが、これは利益確定とナンピン買いを同時に行っているとも言えます。
債券が大きなマイナスとなったときに購入した債券が、将来の株価下落局面でポートフォリオ全体のショックを和らげてくれる可能性があるわけですから、やはり債券への投資は必要です。それが分散投資の意義であり、強みといえるでしょう。そういった基本を実践しているのがGPIFの運用です。ひきつづきケレン味のない運用を続けて欲しいと思います。
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