トルコリラの暴落が止まりません。なぜか日本でFXをやっている人には根強い人気があるトルコリラですが、これだけ暴落するとスワップポイント狙いでトルコリラを買って火だるまになっている人がかなりいるのではないでしょうか。ただ、今回のトルコリラ暴落はかなり特殊なものです。なにしろ最大の要因が、エルドアン大統領による“トンデモ経済政策”にあるからです。
通常、どこの国でも自国通貨が適正水準以上に下落してインフレが悪化すれば政策金利を引き上げて自国通貨を防衛し、インフレの抑制に努めます。これは金融政策の基本中の基本。もともとトルコは経常収支が赤字の国なので通貨安とインフレになりやすく、トルコ中央銀行もインフレが悪化すれば政策金利を引き上げて通貨防衛とインフレ抑制に努めてきました。
ところが、これに待ったをかけたのがエルドアン大統領。「金利が高いからインフレが起こる」という謎の理論を唱え始めます。そして政策金利を引き上げようとしていた中央銀行総裁を次々と解任し、自分の息のかかった人物を後任に送り込み、実際に政策金利を引き下げさせました。
トルコ大統領、型破りな持論繰り返す-利下げがインフレ抑制と主張(ブルームバーグ)
11月18日には3カ月連続の利下げを行い、政策金利は15%となりました。するとやはりトルコリラは一段と下げて、対ドルで最安値を更新。年初来で30%超の下落となり、とくに今四半期(10~12月)だけで15%超の下落となるなど下げ足が加速しています。ところがエルドアン大統領は「金利と戦う」「金利が原因でインフレがその結果だ」と相変わらずの怪気炎。
トルコ中銀が政策金利引き下げ、3カ月連続-12月に利下げ停止を検討(ブルームバーグ)
トルコ大統領「金利と闘う」 利下げ観測でリラ安加速(日本経済新聞)
大統領による謎の経済理論を実践した結果、トルコの経済はどうなったのか。ブルームバーグの記事は「トルコの消費者物価指数(CPI)は10月に前年同月比で19.9%上昇」と伝えています。これだけインフレ率が高まると市民生活への影響は甚大。はっきり言ってトルコ国民もトルコリラをまったく信用しなくなっています。そのあたりの実情をイスラム研究者の内藤正典さんがツイートしていました。
わっ、トルコ・リラがついに10円台に急降下。2005年には80円だったからな。今日、政策金利を下げたためだが、市民は銀行(政策金利に連動して金利が下がる)から金を借りたら即座に両替商に行ってドルを買う。金を買う。この国の人は自国の通貨で生活していない。これも凄い事だが、いつまでももたない pic.twitter.com/uLTMRtH8qa
— masanorinaito (@masanorinaito) November 18, 2021
国民が自国通貨を見放し始めると、その国の経済はいよいよ末期症状の入り口に差し掛かります。 これからトルコ経済は、相当厳しい状況になる可能性がありそう。なにしろ、トルコ国民自身が既に生活防衛に全面的に舵を切っているわけですから。まあ、トルコ国民は1990年代に年率100%~70%のインフレを経験しているので、しぶとく生き残るとは思いますが(そして、トルコ国民すら売っているトルコリラをFXで買っている日本人は、たぶん助からないと思う)。
それにしても現在のトルコリラの状況とインフレに苦しむトルコ国民を見ると、エルドアン大統領の責任は大きいと思う。経済政策というのは教科書レベルでも理論があるわけで、それを無視して「ぼくのかんがえたさいきょうのけいざいせいさく」なんか採用したら、とんでもないことになる。それによって打撃を受けるのは国民です。その意味でエルドアン大統領は、まさに「トンデモ経済政策の末路」をまざまざと見せてくれました。
ただ、日本人もエルドアン大統領を笑うわけにはいきません。インフレを抑制するために金利を上げるのがセオリーなら、デフレから脱却して景気を回復させるためには金利を下げるというのが、やはり金融政策の基本です。ところが日本には「金利を上げれば景気が回復する」という謎の理論のトンデモ経済政策を唱える政治家がいるわけですから。
もっと言うと、景気が過熱しているときは増税や緊縮財政を実行し、不景気な時には減税や積極財政で景気にテコ入れするというのは、やはり財政政策の基本です。ところは日本では不景気でも緊縮財政と増税というトンデモ経済政策を唱えたり実行する政治家が少なくありません。
そういう意味でも、「トンデモ経済政策の末路」ともいえる状況となっているトルコの現状は、日本にとってもまさに「他山の石」なのです。
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