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2019年3月26日

イチローが実践した老後準備と資産形成の真髄



シアトル・マリナーズのイチロー選手が引退しました。偉大なレジェンドがプレイヤーとしてのキャリアを終えることに、その現役生活を見続けた一人としてなんとも言えない感慨があります。思い返せば、私がイチローを初めて知ったのは1992年のジュニアオールスターでした。代打で登場した鈴木一朗が、決勝本塁打を放ってMVPをかさらっていった姿に「すごい選手が現れた」と思ったものです。それからのイチロー選手の活躍は改めて説明するまでもありません。そのイチロー選手、経済的なマネジメントの面でもプロフェッショナルだったことを経済誌「Forbes」が伝えています。それは“老後準備”や“資産形成”のための真髄ともいえる基本原則を、それこそヒットを打つように軽々と実践してしまう姿です。

「Forbes」は、イチローの素晴らしいキャリアを特集する長文の記事を掲載しています。そこは経済誌らしく、野球だけでなく契約内容に前踏み込んで、その高いマネジメント能力を絶賛しています。

Ichiro Suzuki's Negotiating Success Is Just As Impressive As His Extraordinary Career(Forbes)

なんとイチローは巨額の年俸の一部を後払いにする契約を結んでいたそうです。Forbesは2007年にマリナーズと結んだ3度目の契約内容に注目し、次のように紹介しています。
By the time Ichiro had signed his five-year, $90 million contract (2008-2012) with the Mariners in July 2007, he was in the middle of his seventh major league season at 33 years old. While many of Ichiro’s unique incentives and perks remained in place with slight adjustments, the clear focus was on deferred compensation. Cot's Baseball Contracts reports that Ichiro deferred $5 million of his salary annually over the length of the contract which totaled $25 million. This time, Ichiro received an interest rate of 5.5 percent on the deferred money and will begin collecting in January 2020.
5年9000万ドルの報酬のうち、2500万ドルが後払いとなっており、年利5.5%の利息を含めて引退翌年の2020年1月から受け取りがスタートするのだとか。現役時代に巨額の報酬を得ていたプロスポーツ選手が引退後、生活に困窮して自己破産したり、中には生活苦から詐欺集団の広告塔になったり、さらに自身が犯罪行為に走ったりするケースもあるわけですが、それと比べるとイチローのリタイア後の経済基盤は盤石です。だからこそForbesの記事は“Ichiro had the foresight to strategically plan for an enriching life after baseball.”(イチローは野球を引退した後の生活も豊かにするために戦略的な計画を立てる先見性を持っていた)と絶賛しているのです。

米国は日本以上に経済面での自己責任原則が強い社会です。このため老後資産対策として様々な金融教育が行われていますが、そこで強調されていることの一つに「現役時代に得ている収入は『現在の生活費+老後の生活費』だ」という考え方があります。つまり、現役時代には必ず収入の一部を老後資金として取っておくこと(それは貯金から株式などへの投資までを含みます)が必須だとされます。イチローがしていることは、まさにこれです。そういう意味でイチローは、老後準備や資産形成の真髄を実践しているといえるでしょう。

こうした老後準備や資産形成は、だれもが実践できることです。実際に私も現在、個人型確定拠出年金(iDeCo)や個人年金保険に加入していますが、これは現在の収入の一部を後払いにすることです。しかし、現実の生活は誘惑も多い。ついつい無駄遣いをしたくなるのも人情です。しかしイチローは、それこそ贅沢三昧してもびくともしない巨額の収入を得ながら、戦略的にリタイア後の経済基盤を整備していた。誰もができる方法だけれども、それを徹底して実践してしまうところが、イチローが真のプロフェッショナルだった証です。

もちろん、イチローは巨額の収入を得ていたからこそ、その一部をリタイア後の準備に充てるだけの余裕があったという見方もできます。しかし、この点に関してもイチローはじつに参考になる発言をしています。引退試合後の会見でイチローは、弓子夫人(この女性こそイチローの経済的マネジメントの本尊だと思う)が作ったおにぎりを毎日持参して球場入りしていたエピソードを紹介し、妻への感謝の気持ちを話していました。いくらでも贅沢な食事ができるイチローですが、弓子夫人が作ってくれたおにぎりこそが最大のパワーの源だったわけです。「贅沢すること」と「生活の質」はイコールではない。大事なのは、どれだけお金を使っているかでなく、もっと本質的な価値観に基づく生活のあり様だということです。これもまたイチローから学ぶことのできる資産形成の神髄でしょう。

非の打ちどころのないキャリアを続けているイチローは、今後もきっと私たちに大きな感動を与えてくれることでしょう。そんな中、引退後のイチローに関して特に期待していることがあります。それは、リタイア後も巨額の収入を得ることになった彼が、今度はどんな「お金の使い方」を見せてくれるかです。イチローのことだから、きっと目の覚めるようなヒットを連発してくれると思う。そういえば、私がイチローを初めて見た1992年のジュニアオールスターの後、彼は受賞したMVPの賞金100万円全額を神戸市の養護施設に寄付したことを思い出しました。あれからイチローは何も変わっていない。いまも人知れず「お金を使う」ことでもヒットを連発しているはずです。今度は、そこに注目が集まることを期待したいのです。



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