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2018年7月23日

同じ8資産均等型でも「eMAXIS Slim」と「ニッセイ<購入・換金手数料なし>」は直接比較できない全く別の商品



バランス型インデックスファンドは資産配分のコンセプトがその商品の魅力と言えるのですが、中でも根強い人気があるのが8資産均等型です。日本、先進国、新興国の株式、債券、REITをそれぞれ均等保有するというコンセプトは「どうせ、どれが値上がりするのか分からないのだから、全部均等に買っておけ」という割り切った発想が清々しいからでしょう。そして8資産均等型のバランス型インデックスファンドとして注目なのが極めて低コストを実現した「eMAXIS Slimバランス(8資産均等型)」「<購入・換金手数料なし>ニッセイ・インデックスバランスファンド(8資産均等型)」です。このため8資産均等型のバランス型インデックスファンドに投資しようとする場合、この2商品から選ぼうと考えている人も多いのでは。しかし、ここで注意して欲しいことがあります。じつはこの2ファンドは同じ8資産均等型ですが、投資対象が少し異なる。つまり直接比較はできない全く別の商品となっているのです。

この2ファンドはともに8資産のマザーファンドに均等投資するバランス型インデックスファンドですが、最大の違いは新興国債券マザーファンドにあります。「eMAXIS Slimバランス(8資産均等型)」が投資する新興国債券マザーファンドのベンチマークは「JPモルガンGBI‐EMグローバル・ダイバーシファイド(円換算ベース)」であるのに対して、「<購入・換金手数料なし>ニッセイ・インデックスバランスファンド(8資産均等型)」の新興国債券マザーファンドのベンチマークは「JPモルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス・プラス(除くB格以下)(円換算ベース)」なのです。

この違いはなにを意味するのかというと、「JPモルガンGBI‐EMグローバル・ダイバーシファイド(円換算ベース)」は現地通貨建て新興国債券のインデックスであるのに対して、「JPモルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス・プラス(除くB格以下)(円換算ベース)」は米ドル建て新興国債券のインデックスだということ。つまり、同じ8資産均等型でも新興国債券については「eMAXIS Slim」は現地通貨建て新興国債券に投資するファンドであるのに対して「ニッセイ<購入・換金手数料なし>」は米ドル建て新興国債券に投資するファンドだということです。そして同じ新興国債券でも現地通貨建て債券と米ドル建て債券は全く別の投資対象です。

現地通貨建て新興国債券と米ドル建て新興国債券の違いは、為替リスクと大きさと通貨の信用度に起因する利回りに現れます。現地通貨建て債券は、文字通り現地通貨の為替リスクを全面的に負います。一般的に新興国は通貨が脆弱な国が多く、どうしても現地通貨建て新興国債券は為替リスクが大きくなりがちです。これに対して米ドル建て新興国債券は基本的に対米ドルの為替リスクしか負いませんから、米ドル建て新興国債券の方が現地通貨建て新興国債券よりも為替リスクが小さくなります。

言い換えると現地通貨建て新興国債券よりも米ドル建て新興国債券の方が通貨の信用度が高いということになるのですが、そのかわりに信用度が高くなると利回りは低下します。実際に現地通貨建て新興国債券と米ドル建て新興国債券では大抵の場合、現地通貨建て債券の方が利回りは高くなります。例えば「eMAXIS新興国債券インデックス」(「eMAXIS Slim」シリーズには新興国債券インデックスファンドが無いので同じマザーファンドの「eMAXIS」シリーズで代替しました)と「<購入・換金手数料なし>ニッセイ・インデックスバランス(8資産均等型)」の月報を見ると、それぞれ新興国債券マザーファンドの6月末段階の利回りは以下のようになります。

「eMAXIS」新興国債券マザーファンド(=現地通貨建て債券)
平均最終利回り:6.57%
平均直接利回り:6.16%

「ニッセイ<購入・換金手数料なし>」新興国債券マザーファンド(=米ドル建て債券)
平均最終利回り:5.05%
平均直接利回り:5.34%

「平均最終利回り」は、保有債券を満期まで保有した場合の複利利回りを加重平均したもので、「平均直接利回り」は保有債券についての表面利率を加重平均したものです。これを見ると明らかに現地通貨建て新興国債券の方が利回りは優れる。その代わりに為替リスクが大きいですから騰落率のボラティリティは現地通貨建て新興国債券の方が大きくなりがちです。実際に新興国通貨が大きく下落した過去3カ月のマザーファンドの騰落率を見ると「eMAXIS」新興国債券マザーファンドが-7.78%だったのに対して「ニッセイ<購入・換金手数料なし>」の新興国債券マザーファンドは+1.0%でした。同じ新興国債券への投資でも、値動きが全く異なるのです。それは二つのファンドが、まったく別の資産に投資しているということを意味します。

こうしたことを考えると、同じ8資産均等型でも「eMAXIS Slim」と「ニッセイ<購入・換金手数料なし>」は直接比較できない全く別の商品だということが分かります。ただし、そこに優劣はありません。直接比較できないのですから当たり前の話です。大切なのは、投資家がそれぞれの投資対象をよく理解して商品を選ぶことです。現地通貨建て新興国債券の高利回りを評価するなら「eMAXIS Slim」を選べば良いし、新興国債券を米ドル建てにすることで為替リスク低減効果を期待するなら「ニッセイ<購入・換金手数料なし>」が 魅力的です。それがバランス型インデックスファンドのコンセプトの魅力というものです(ちなみに私個人としてはニッセイの米ドル建て新興国債券インデックスファンドにかなり興味があります。個別インデックスファンドとして<購入・換金手数料なし>シリーズにラインアップして欲しいぐらい)。

バランス型インデックスファンドは「つみたてNISA」のように単独口座内でのリバランスが難しい制度を使って購入するのに便利な商品です。その中で8資産均等型というのは有力な選択肢ですから、コスト最安値を競う「eMAXIS Slim」と「ニッセイ<購入・換金手数料なし>」はいずれも有力候補。しかし、中身が微妙に異なることに注意して、好みの商品を選ぶことが大切になるでしょう。

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ちなみに8資産均等型にはもうひとつ「iFree8資産バランス」という面白い商品があります。これも「eMAXIS Slim」「ニッセイ<購入・換金手数料なし>」いずれもともまったく異なる商品です。こちらの違いは新興国株式マザーファンドのベンチマークが一般的な「MSCIエマージング・マーケット・インデックス」ではなく、ファンダメンタルインデックスである「FTSE RAFIエマージングインデックス」だということ。これはこれでかなり面白いベンチマークです。この点に関しては以前にブログで紹介しました。

じつは貴重な存在である「iFree新興国株式インデックス」―ファンダメンタルインデックスの可能性



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