サテライトポートフォリオで少額ながら積み立て投資しているピクテ投信投資顧問の低コストアクティブファンド「iTrust世界株式」の2017年12月次運用報告が出ていたので定例ウオッチです。「iTrust世界株式」の12月の騰落率は+2.07%、参考指数であるMSCIワールド・インデックス(ネット配当込み)の騰落率は+2.94%でした。前月まで連続して参考指数をアウトパフォームしていましたが、12月はアンダーパフォームとなりました。また、iTrust受益者専用サイトからピクテの機関投資家向けレポートが配信されていますが、ちょっと気になる記述が増えています。米国株の割高感を指摘していて、先進国でのインフレ傾向が株式市場に与える悪影響が懸念材料になりそうです。
12月の世界の株式市場は月半に米国の税制改革法案成立への期待から上昇しました。米国の雇用統計などの経済指標が堅調だったことや、英国とEUが英国のEU離脱条件を巡って大筋合意したこともプラス要因となりました。月後半以降は、年末休暇を控え市場参加者が少なくなったことで横ばいの推移となりましたが、月間では世界の株式市場は上昇しました。
業種別では、エネルギーや素材、一般消費財・サービスなど米国の税制改革の恩恵を受けやすいと考えられるセクターを中心に市場平均を上回って上昇しました。エネルギー、素材は原油などの商品市況の上昇、一般消費財・サー ビスは米国小売売上高が堅調な結果となったことなども上昇に寄与しました。一方、公益銘柄は税制改革の恩恵を受けにくいことや、米国および欧州の長期金利上昇などがマイナス要因となり下落しています。
組入れ上位銘柄10位を見ると、オランダの情報サービス・ソリューション企業であるヴォルタース・クルーワー、南アフリカのメディア企業であるナスパーズが入ってきたのが目を引きます。最近、ピクテは欧州株と新興国株の割安感を盛んに指摘していますから、そうした判断によるものでしょう。
さて、あいかわらず興味深いのが受益者に配信された機関投資家向けレポート「Barometer」。2018年1月号では引き続き株式オーバーウエート、債券アンダーウエートを推奨していますが、株式に関しては「全ては経済成長次第」というやや強気が後退した表現が登場しています。概ね株式への投資環境は良好で、今後も堅調な成長が予想される反面、ここにきて先進国にインフレ傾向が出ているとして次のように指摘しています。
バリュエーション面では、株式市場の大部分が適正水準にあると見ていますが、インフレ率の上昇が相場の下押し材料になるでしょう。インフレ率の3分の2を構成する賃金の上昇率が先進国で加速している他、中国ではコアインフレ率が6年ぶりの水準まで上昇しています。ピクテの試算では、インフレ率が1%上昇すると、株式市場のバリュエーションは5~10%低下する傾向にあり、2018年はバリュエーションの縮小に直面する年となるかもしれません。とくにバリエーション面で割高感が高まっているのが米国株だとして、やはり次のように指摘しています。
米国株式については、複数の指標から見て割高と判断する根拠があり、売りのシグナルを発しているとの見方もできます。PER(株価収益率)が20倍と長期平均を上回る水準にある他、PBR(株価純資産倍率)は過去平均を0.7標準偏差程度上回る水準にあります。もっとも、米国企業の業績好調や税制改革の好影響がこれら懸念を緩和していますから、やはり米国株も「全ては経済成長次第」ということになります。ただし、ここでもインフレ傾向が相場への下押し圧力となると見ており、ピクテとしては米国株はアンダーウエートを推奨している。一方、強気の見通しとなっているのが欧州株、日本株、新興国株。とくに欧州株は景気回復基調を完全に織り込み切れていないことから、上値余地が大きいというのがピクテの見立てでした。
そしてインフレ傾向から、最も逆風となるのが債券。とくにハイイールド債券は金利上昇局面で大きな打撃を受ける可能性が出てきました。逆に新興国債券は有望だそうです。大部分の新興国がインフレ率の上昇を伴わない景気回復を謳歌しており、ピクテの試算では新興国通貨は平均して公正価値よりも20%程度ディスカウントされた水準で取引されているとか。このため現地通貨建て新興国債券には投資妙味があるというのは面白い指摘です。ただし、ピクテのレポートに示された見通しはすべてドルベースですから、日本人が新興国債券に投資する場合は対円レートの影響を考慮する必要があることを指摘しておきます。
ピクテのレポートを読んで、いよいよ海外の機関投資家の間で株式市場に対して強気一辺倒の見通しが後退していることを感じます。とくに米国株に対してその傾向が色濃くなってきました。最近、日本では米国株にさえ投資していれば大丈夫という見方が一部にあるわけですが、そういった極端な意見が増えてくる状態もまた危険なシグナルのような気がします。
【ご参考】
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