定例の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ウオッチです。2017年度第2四半期(7~9月)の期間収益率は+2.97%、帳簿上の運用益は+4兆4517億円、市場運用開始来の収益率は年率3.20%となりました。これにより運用資産額は156兆8177億円となります。
平成29年度第2四半期運用状況(GPIF)
国内外の好調な市場環境を受けて、今四半期も四半期ベースで5期連続プラスリターンとなるなど好調な運用成績でした。ただ、現在の資産構成割合を見ると、なかなか悩みも抱えていそうです。
帳簿上の評価額とはいえ、大きな損失が出るとセンセーショナルに報じされるGPIFの運用ですが、最近は好調な成績が続いていることもあり、あまりマスコミをにぎわさなくなりました。マスコミもいい加減なものです。なので、私は意地でもこの定例ウオッチをブログで続けようと思っているのです。なぜなら、相場が好調な時ほど、じつは運用の問題点や課題が見えてくるものだから。そういう視点をマスコミにも持ってもらいたいものです。
さて、肝心の7~9月の運用ですが、世界的に好調な市場環境が続いたことで、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式すべての資産カテゴリーでリターンはプラスでした。とくに国内株式と外国株式はいずれも5%前後の上昇となり、リターンを押し上げています。髙橋則広理事長は次のようにコメントしています。
2917(平成29)年度第2四半期(7月~9月)は、内外の堅調な経済指標、良好な企業業績が継続したことに加え、日銀の金融緩和が継続される中で、FRB(米連邦準備理事会)の景気に配慮した金融政策正常化への信頼感から、世界的に資産価格が上昇しました。このように良好な市場環境が続いたことから、7月から9月までの運用実績はプラス2.97%となりました。一方、現在の資産構成割合を見ると、やはり気になる点があります。現在、国内債券の比率は28.5%となり、ついに30%を割り込みました。GPIFの基本ポートフォリオでは国内債券の割合は35±10%ですから、いよいよ下限に近づいています。本来ならリバランスして株式を売却し、国内債券を買い増しするべきところなのでしょうが、その動きが見えません。しかも現金などである短期資産のウエートが9.1%まで高まっています。
これはあくまで個人的な想像ですが、おそらくGPIFはマイナス利回りの国債を購入することを躊躇しているのではないか。債券というのは満期まで保有すれば基本的に元本割れの無い資産ですが、マイナス利回りの債券は、長期で保有すればするほど元本割れになるリスクが高まる。しかも、金利が少しでも上昇すると、一気に債券価格は下落して損が広がってしまいます。そして、債券投資というのは基本的に金利への投資ですから、マイナス利回りの債券を購入しないというのは、それはそれでひとつの見識でもあります。
この点に関して、さすがブルームバーグ辺りは鋭い指摘をしていました。
GPIF:7-9月の運用益4.5兆円、リスク資産好調で5期連続黒字(ブルームバーグ)
この中で、とくに次のような指摘が気になります。
SMBC日興証券の末沢豪謙金融財政アナリストは「日本銀行の異次元緩和が債券価格を無理に押し上げているので、長い目で見ると国内債への投資にはリスクがある」と述べた。国内債券が将来的な値下がりリスクを抱えていることは、債券価格と金利の関係を理解している人ならすぐに理解できます。マイナス利回りというのは、そういうことです。そして、ここにGPIFの悩みがあると思う。せっかく株式投資で収益を上げても、国内債券への投資で大変な運用難に直面していると理解できるからです。短期資産の増加は、その表れです。
とはいえ、基本ポートフォリオの下限に近づいたことで、いずれリバランスによって国内債券への投資を行わなければなりません。リスク管理の面でも国内債券への投資は必要不可欠ですから。さてどうしたものか。好調な運用成績の影で、GPIFの苦心は続くことになりそうです。受益者である国民の1人として、今後の動向を引き続き注視していきたいと思います。
さて、今回もYouTubeで運用状況の説明動画がアップされています。記者会見での説明者は今回も本多奈織さん。じつは最近、本業の方でもちょっとお世話になりました。じつに有能な広報担当者です。ぜひ動画での雄姿をご覧ください。
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