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2017年8月15日

証券会社が生き残るためには積立投資の普及しかない



日本経済新聞で面白い連載記事が始まりました。

動かぬ個人資産1800兆円(1)投機か預金 育たぬ投資家(「日本経済新聞」電子版)

日本では官民挙げて「貯蓄から投資へ」の掛け声を上げてきたわけですが、現実は一向に投資の普及が進まず、個人金融資産1800兆円のうち預貯金が1000兆円を超えました。大多数の個人が投資からまったく距離を取る一方、ごく一部の先鋭化した投資家が“投機”的な株の短期売買や仮想通貨へとのめり込むという歪な二極構造となっているという指摘です。このため証券会社にとって将来的な顧客層の開拓が死活問題になっている。こうなると証券会社が生き残るためには現役世代を顧客として取り込むしかないわけで、やはり積立投資の普及しかないのです。

日本の個人が、まったく投資しない層と投機的な投資を繰り返す層に二極化した要因はいろいろあるのですが、やはりバブル崩壊以降の株式相場の低迷が最大の要因です。記事は次のように指摘しています。
日経平均株価はバブル絶頂だった1989年12月に3万8915円の最高値を付けた。その後は長期にわたり低迷しリーマン・ショック後の2008年10月には7162円とピークの2割以下まで下げた。短期売買を推奨する証券会社の営業姿勢も追い打ちをかけ「投資は損をする」との先入観が個人の心理に植え付けられた。
そんな中で大きな利益を上げるには、王道的な長期投資ではなく投機的な手法しかないという認識が広がったことも不幸なことでした。

ただ、ここでひとつ考えたいのは、過去30年間の株式相場で、本当に損をするしかなかったのかという問題です。確かに日本株への一括投資なら、1989年に投資を始めた人のほとんどがいまでも含み損のままでしょう。でも、もし積立投資をやっていたらどうなったか。積立投資というのは大きな下落を経て、その後に相場が回復するという経路をたどったときに一番利益が出ます。実は日本株の過去30年間の値動きというのは、積立投資をやっていたらものすごく儲かるチャートの形だったのです。

さらに日本株だけでなく海外株式も含めた国際分散投資をやっていたらどうなったか。やはりリーマン・ショックや異常な円高という大きな下落局面を何度も経て米国株は過去最高値となっていますから、現在は大きな利益を上げていたはずです。そういう経験を日本人がしていたなら、いまでも「投資は損をする」という感覚にはならなかったはずです。

ただし、こういった指摘はしょせん仮定の話にすぎません。なぜならインデックスファンドなどを使った国際分散投資を積み立てという形で実践できるようになったのは、たかだかこの10年のことだからです。しかし言い換えると、現在は積立による国際分散投資ができるということ。株式相場が一本調子で上昇することはありえません。今後も大きな下落局面を経験することでしょう。それを乗り越えて投資による利益を確保するひとつの方法が国際分散投資であり積立投資なのです。ここに普通の個人に投資を普及させる際のカギがあるのです。

証券会社も大きな岐路に立たされています。このまま日本の個人が投資から距離を置いたままになれば、彼らは生きるすべを失ってしまう。しかも残された時間はあまりない。日経新聞の記事では次の記述が印象的です。
「このままだと客が相当、減ってしまう」。東海東京フィナンシャル・ホールディングス社長の石田建昭(71)は証券業界の悩みを語る。対面型の証券会社では顧客の平均年齢が上がり相続などに伴い証券市場から退出していく時期が迫っている。若い世代に投資を浸透させなければ客が本当にいなくなってしまう。
証券会社もさすがトップは問題の核心を冷静に直視しているのです。いまここで若い世代に投資を浸透させることができなければ、多くの証券会社は死ぬ。経営が悪いから死ぬのではありません。市場構造が変化するから死ぬのです。市場構造の変化に直面したとき、企業はビジネスの方法を劇的に変えるしかない。証券会社の場合、そのひとつが積立投資の普及による若い世代の開拓しかない。
「もうかるもうからないではない。100年の計を決めるつもりで取り組むべきだ」。7月24日、日本証券業協会の会長に就いた鈴木茂晴(70)は都内で開いた就任パーティーで若者への積み立て投資の普及を訴えた。「貯蓄から投資」という言葉だけが躍り「50年以上、何も変わっていない」という現状に危機感を募らせる。
こういう危機感は、やはり企業経営者として正しい。積立投資は手数料収入が少ないですから、従来の短期売買と比べて証券会社の収益性を大幅に低下させるでしょう。しかし、それをやらなければ業界が確実に死ぬ。それを回避するためには、一時的な収益低下を我慢してでも長期的な戦略が必要なのです。まさに「もうかるもうからないではない。100年の計を決めるつもりで取り組むべきだ」という激は、証券会社が生き残りをかけた変革を避けられないということの表れです。

そして、すでにこの変革の方向性の正しさを示すデータもあります。やはり日経新聞に次のような記事が出ていました。

広がる積み立て投資、3年で倍増 NISAが追い風(「日本経済新聞」電子版)

積立投資の普及は、先行して取り組んできたネット証券を中心に確実に増加している。いまや積立投資による資金流入は年間1700億円規模に達しようとしているのです。1800兆円の個人金融資産総額から見れば小さな額です。しかし、とてつもなく大きな意味を持つ1700億円でしょう。なぜなら、この細い流れの先にこそ証券会社が生き残るための大きな場所があるのですから。

積立投資の普及を後押ししているのがNISAです。そして2018年からは、さらに積立投資に特化した制度である「つみたてNISA」が始まります。多くの証券会社は、これに向けての取り組みを強化しています。しかし、それはなにも金融庁の顔色を見ての動きでは決してない。積立投資によって若い世代に投資を普及させることが証券会社にとっての数少ない生き残り策なのであり、そこに力を入れるのは営利企業として当然のことなのです。

こうした動きを個人も上手く活用することが必要でしょう。なぜなら30年前と異なり、個人にとっても投資の意味合いが大きく変わっているからです。歴史的な低金利が続く中で、現役世代にとって投資は単に"手っ取り早く儲ける"手段ではなく、堅実な資産形成のための数少ない選択肢のひとつという役割を担わざるを得なくなっているからです。最初に紹介した日経新聞の記事には次のような記述がありました。
だが預金だけでは豊かな老後は築けない。フィデリティ退職・投資教育研究所によれば退職後に金銭面の不安がある人の比率は5割を超える。6割は退職前に十分な資産形成をしておけばよかったと後悔している。
いま若い世代には資産形成の手段が必要なのです。そして証券会社は若い世代を顧客として取り込まなければならない。この二つの大きな流れの先にあるのが積立投資です。積立投資の役割というのは今後、個人にとっても証券業界にとって、とてつもなく重要になっていくと言えるのです。



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