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2017年6月14日

日本人と米国人では米国集中投資の意味がまったく異なる



バンガードの創業者であるジョン・C.ボーグル氏がブルームバーグのインタビューに答え、米国株式・債券への集中投資を推奨していることがちょっとした話題です。

「群衆は常に間違い」-バンガード創業の88歳投資家、米証券に固執(ブルームバーグ)

国際分散投資の総本山ともいえるバンガードの創始者がこうした見解を披歴するのはなかなか興味深い。日本でも最近、米国集中投資でいいのではないかという意見が増えているような気がしますから。やはり過去30年ぐらいの米国株のパフォーマンスが素晴らしく、そのポテンシャルはいまだ衰えないということでしょうか。ただ、ここでひとつ注意する点もあると思う。それは同じ「米国集中投資」と言っても、米国人と日本人では意味がまったく異なるのではないかということです。

ブルームバーグの記事によると、ブラック・ロックやモルガンスタンレーと言った他の運用会社が米国だけでな欧州などへも分散投資することを推奨しているのに対し、ボーグル氏は米国株式・債券インデックスへの集中投資を続けているとして、次のような発言を紹介しています。
ボーグル氏は「米国が最良の投資先だと考えている。恐らく世界で最も技術志向の国だ。私は米国が世界のどの国や地域よりも良好なパフォーマンスを生むことに賭ける。経済が長期的に最強になる国に投資するというシンプルな賭けだ」と述べた。
この発言に対して、国際分散投資を行っている者の一人としてどう考えるべきか。実は私は、ある意味でボーグル氏の考えは正しいと思います。なぜなら、ボーグル氏は米国人だから。もし私も米国で生活しているなら、やっぱりボーグル氏のように米国集中投資をすると思う。なぜなら、為替リスクから解放されるからです。

米国への集中投資というと、あまり分散が効いていないように感じるかもしれませんが、意外とそうでもありません。例えば先進国株式インデックスであるMSCIコクサイ・インデックスだと、だいたい60%強が米国への投資となります。先進国債券インデックスのシティ世界国債インデックス(除く日本)でも米国債券のウエートは40%強。つまり株式にしろ債券にしろ、米国だけに投資してもそれなりの分散度合いにはなっています。

しかも米ドルで生活している米国人なら、米国の株式・債券への投資は為替リスクがありません。この意味は大きい。米国集中投資でも、株式なら先進国株式の時価総額加重平均の約60%、債券でも40%に投資できて、為替リスクはゼロ。これなら無理をして米国以外の株式・債券に投資して余計な為替リスクを負うのは馬鹿らしいと考えるのは一つの見識です。その意味でボーグル氏のように米ドルで生活する人は、いまのところ米国集中投資でもそれほど問題はないし、ある意味では合理的な選択でもあります。

ところが同じ米国集中投資でも、日本人がやるとなると意味が大きく異なってくる。日本人が米国集中投資をすると、それこそ米ドルという1種類の外貨への極端な集中投資になってしまいます。さてさて、この為替リスクをどのように考えるべきか。どれだけ米国企業が成長し、株価が上昇しても対ドルで円高が進むだけで元の木阿弥。個人的には、これは怖すぎる。

ここに日本人のように非基軸通貨で生活している国の人間が国際分散投資する難しさがありるのでしょう。株式や債券といった投資対象の分散だけでなく、為替リスクに対する対応が必要だからです。そのためには、やはり投資対象通貨も分散させるべきでは。というのも、為替というのは常にクロスレートで考えるべきものだから。例えば対ドルで円高になっても対ユーロで円安になることは十分ありえます。あるいは対ドル、対ユーロで円高の時、対人民元、対ウォン、対ルピア、対レアルではどうなのか。こう考えると新興国にも投資する意味が少し見えてくるかもしれません(ただし、いまのところ日本円は最強通貨の一つですから、全ての通貨に対して独歩高になる場合も少なくありません)。

そして日本株式・債券を保有する意味も見えてくるかもしれません。確かに投資対象を日本にまで分散することでポートフォリオ全体のリターンは下がるかもしれない。しかし、少なくともポートフォリオ全体の為替リスクは低下します。そもそも分散投資の目的はリターンを引き上げることではなく、リスクを低減することですから、十分に意味のあることでしょう。

こうしたことを感じるから、私個人とては日本、先進国、新興国まで幅広く分散投資しているわけです。円という非基軸通貨で生活している者の辛さですね。ボーグル氏の記事を読んで、改めてそれを感じました。やはり日本人と米国人では「米国集中投資」の意味がまったく異なるのです。

さて、ボーグル氏の記事を読んでもうひとつ面白かったのが、次の部分です。
ポートフォリオに株式と債券を同じ割合で保有しているという。もちろん全てインデックス投資だ。
米国集中投資の問題とは別に、ボーグル氏が株式インデックスファンドと債券インデックスファンドを50:50の割合で保有しているというところが光る。株式と債券の均等配分というのは古典的なポートフォリオですが、その古典的手法を頑固一徹に続けているとことが実に味わい深い。もしかしたらインデックス投資家がボーグル氏に学ぶべき点は、この辺りなのかもしれません。

※今回の記事は、相互リンクいただいているフクリさんの記事にレスポンスしてみました。

(インデックス投資の疑問) 株式はアメリカのみに投資をすればいいと思いますか?(フクリの海外ETF長期投資ブログ)

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