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2016年6月4日

ファンドの評価は誰がするのか?―ベンチマークの有無についての雑感



先日、ピクテ投信投資顧問とのやり取りでアクティブファンドの運用成績を評価する基準としてのベンチマークや参考指数の意味についていろいろと考える機会がありました(ピクテ投信投資顧問の誠実な姿勢が素晴らしい―iTrust世界株式への問い合わせに対する回答がありました)。この問題はけっこうややこしく、「ベンチマークや参考指数を明示しないアクティブファンドはダメだ」とは一概には言えないとの思いが強くなっています。なぜなら「運用プロセスに特定の指数の構成銘柄・比率は一切考慮しない」という運用スタイルを採用するアクティブファンドの場合、自由な銘柄選択が前提となるからです。こうなると投資ユニバースの市場平均を表す指数をベンチマークにしても、つねに比較の整合性が脅かされる。なぜなら自由に銘柄選択できるアクティブファンドは、指数の前提である投資ユニバースからもいつでも離脱できるからです。しかし、そうなると受益者としてファンドの運用成績の良し悪しをどいやって判断すればよいのかという問題も生じます。そこで考えないといけないのは、そもそも「ファンドの評価は誰がするのか?」ということなのでしょう。

ベンチマークや参考指数といった運用成績の良し悪しを測る基準について、安房さんがなかなか精密な論考を書いています。

ファンドの比較対象としての指数(ベンチマーク、参考指数等)について考察してみる。(海舟の中で資産設計を ver2.0)

安房さんもベンチマークや参考指数を巡る複雑な状況について理解しつつも、とりあえずの結論として次のように指摘しています。
受託者となろうとする運用機関は、「我々こそ的確な投資判断でもって良好な運用ができます。それが証拠にこれこの通り、投資ユニバースに比べてこんなに正確な連動/高リターンな運用/低リスクな運用ができてるじゃないですか、好判断ができていればこそです」と主張して資金を集めたい立場です。
従って、投資ユニバース全体を表象する比較対照指数を提示することに積極的になる理由こそあれ躊躇う理由など本来無いはずです。
ようするに、いろいろな運用プロセスがあるにしても、少なくとも「市場平均」を上回ることを目的とする以上は、投資ユニバースの平均を表す指数との比較が妥当ではないかということでしょう。わたしもこの考え方に基本的に賛成します。

投資ユニバースに基づく指数との比較にも限界がある


しかし、これは安房さんも指摘していますが、投資ユニバースの市場平均を表す指数をベンチマークや参考指数にしたとしても、やはり比較の妥当性がつねに担保されるとは限りません。というのは、投資ユニバースとファンドが実際に投資している銘柄構成の間にあまりに大きな乖離があると、やはり比較自体が意味をなさなくなるからです。

例えばセゾン投信のセゾン資産形成の達人ファンドは、なかなか人気のある良質なアクティブファンドですが、やはりベンチマークも参考指数もありません。しかも投資ユニバースは国内外の株式と債券となっています。この場合、投資ユニバース全体を表す比較対照指数を作ることは困難を極める。株式と債券の投資比率が固定されていませんから、一貫した複合指数を算定することも不可能です。株式と債券のすべてを対象とする加重平均指数を作ると、時価総額では債券のウエートが極めて大きくなりますので、現状では株式にばかり投資しているファンドの比較対象としては意味をなしません。

つまり、目論見書で明示される投資ユニバースが極めて大きい場合、その範囲内でアクティブファンドは実際の投資ユニバースを自由に変更できるということです(これは、安房さんも例に挙げているひふみ投信などにもあてはまる)。しかし、それは悪いことではありません。まさに「特定の指数の構成銘柄・比率を一切考慮に入れない」という運用方法によってリターンを追求しようとする考え方だからです。アクティブファンドには、そういった自由が許されているし、それこそがアクティブファンドの魅力でもあります。

最後にファンドを評価するのは受益者自身だ


では、「市場平均を上回る」ことを目的としながら、「特定の指数の構成銘柄・比率を一切考慮しない」ようなアクティブファンドの運用成績は、指数との比較で評価することはできないのでしょうか。私はそれはできるし、しなければなならないと思います。このとき重要になるのは、そもそも「ファンドの評価は誰がするのか?」ということです。いわずもがな、それは受益者自身です。そもそも受益者は、ファンドを自由に評価することができます。だから、受益者自身がファンドの実際の投資ユニバースなどを見たうえで、適当だと思える指数を選び、それと比較してファンドの成績を自由に評価すればいいのです。

その意味で、ベンチマークを設けていないアクティブファンドというのは、運用成績の評価基準の選定を全面的に受益者にゆだねている。しかし、個人投資家に販売されるファンドの場合、個人投資家のすべてが様々な指数に精通しているわけではありませんから、ファンド側でとりあえずの比較対象として妥当な指数を参考指数として紹介するケースもあるということです。だからベンチマークではなく「参考指数」ということでしょう。しょせんは参考指数ですから、当然ながら受益者が参考指数以外の指数との比較を基にファンドの運用成績を評価してもまったくかまわないわけです。

ここにアクティブファンドを買うことの面白さであり、難しさもあります。「市場平均を上回る」ことを目的とするアクティブファンドを選ぶ場合、投資家は優れた運用能力を持つファンドを見つけ出す能力とともに、そもそも評価の基準を設定し、独自に妥当だと思える「市場平均」と比較評価する能力が要求される。その意味では、ベンチマークや参考指数が明示されていないアクティブファンドというのは、極めて上級者向けの商品ともいえます。しかし、投資というのは最初から最後まで自己責任の原則が貫徹される世界ですから、評価基準の決定もまた受益者が責任を負うのは当然ともいえるわけです。

「そんなの面倒くさい!」と思う人もいることでしょう。私も「面倒くさい」と感じます。だからこそ、そういった面倒くささを回避するためにインデックスファンドを選択するという選択肢が生まれる。「市場平均を上回る」ことの可能性を放棄する代わりに、ファンドの運用成績の評価はベンチマークとの連動精度で簡単に判断できる。それは投資家としての主体性を一部放棄することだけれども、べつに普通の庶民が完璧な投資家を目指す必要はないはずです。そして、インデックスファンドに投資していても、やはり受益者はファンドがベンチマークに対してきちんと連動しているかは評価する必要はあります。

いずれにしても、最後にファンドを評価するのは受益者自身です。だから、ベンチマークのあるファンドと無いファンドの違いというのは、評価の基準を事前にファンドが定めるか、受益者自身が決定するかの違いといえるでしょう。少なくとも「ベンチマークも参考指数もないアクティブファンドは欠陥ファンド」だとは一概に言えない。ベンチマークが無ければ、受益者が適当な比較対照指数を決めて、「ダメ」なのか「良い」のかを判断すればいいのです。そこにこそ投資家の主体性があるのですから。

【補足】
今回、ベンチマークの有無についての考えを書きましたが、これはあくまで「市場平均を上回る」ことを目的としたアクティブファンドについてのことです。アクティブファンドの運用目的は自由で多彩ですから、市場平均を上回らなくてもなにか別の目的のために運用されているファンドがあってもいいからです。

また、実際問題としては「市場平均を上回る」ことを目的として謳うアクティブファンドは、ベンチマークを設定しないとしても、少なくともファンドが考える「市場平均」の概要を知らせる意味でも目論見書や月報、運用報告書には参考指数のデータ程度は記載するべきでしょう。これは受益者へのサービスと誠実さの問題であり、つきつめると信託報酬の合理性にかかわる問題となるからです。

また、ファンド評価の最終的な責任は受益者が負うとすると、デリバティブなど複雑な運用方法を組み込んだのアクティブファンドの問題点も明らかになります。こうした商品の運用成績を評価する基準を個人投資家が独自に決定することは事実上、不可能です。そのような商品をプロに売るならまだしも、広く一般に販売する姿勢が“不誠実”なのです。また、個人投資家も自分で評価基準を決められないような複雑な商品を“買ってはいけない”のは言うまでもありません。



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