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2016年5月10日

パナマ文書が話題ですが―タックスヘイブンを利用した企業はステークホルダーに利益を還元しなさい



租税回避地(タックスヘイブン)を利用していた企業や個人のデータが収録されているという「パナマ文書」が話題です。日本の個人や企業の名前も多く含まれており、けっこうな騒ぎになってきました。

パナマ文書、21万社の情報公開=ソフトバンクや伊藤忠の名-国際報道連合(時事通信)

違法な脱税行為が行われているなら、まさに言語道断です。ただ、企業の場合は海外の投資先での二重課税などを避けるためにタックスヘイブンを利用せざるをえない面があるので、冷静な議論が必要でしょう。そして大事なことは、もともと企業には法律の範囲内で余計な租税負担を回避する義務があるということです。なぜなら、企業は利益を最大化する責任を株主などステークホルダーに負っているのだから。その代り、タックスヘイブンを利用した企業は、租税回避によって得た利益をステークホルダーに還元しなければならない。それが企業の最低限の社会的責任だといえるでしょう。

パナマ文書問題で日本をはじめ各国の個人や企業の名前が登場していますが、意外と米国の個人や企業が登場しないことに気づいたでしょうか。理由は、米国は属地主義ではなく属人主義の税制を採用しているため、租税回避地を利用した節税が難しいことがあります。同時に、米国は州法に違いや財団を利用したりすることで国内での租税回避が比較的容易にできるので、わざわざタックスヘイブンを使うまでもないという面もありそうです。また、グローバル企業は税率の低い国の子会社に利益を付けて節税する方法も一般的で、実際にアップルやグーグル、アマゾンといった大企業は積極的な租税回避を実行しています。

もちろん、米国でも税務当局と企業の税をめぐる対立は激しく、アップルのクックCEOなども議会に召喚され、激しい批判を浴びていました。ところが面白いのは、クックCEOは当局の追及に対して激しく反論していることです。これはクックCEOに限らず、米国の経営者はみな正々堂々と反論する。日本だと世間の風当たりに遠慮して、もう少し申し訳なさそうにするものですが、米国の経営者にはそんなそぶりはまったくありません。

しかし、なにも米国の経営者が傲慢なのではなさそうです。というのも米国は株主の力が大きいので、合法的に租税回避ができるのにそれをしなかった場合、株主から利益を最大化する責任を果たせていないとして批判される可能性があるからだそうです。これはこれで筋が通った話です。税金をきちんと徴収したいなら、議会(政府)がその仕組みを法的に整備すればよいだけという割り切った態度です。

こういったことを考えると、タックスヘイブンを利用して合法的に節税している企業に対して要求すべきことが見えてきます。企業は利益最大化という目的に従って、しっかりと節税すればいい。しかし、その利益はステークホルダーのものです。だから、節税によって得た利益は取引先、従業員、そして株主といったステークホルダーに還元しなさいということです。

節税して利益が増えたのだから、そのお金で取引先にしっかりと支払いをする。従業員の給料を上げる。そしてたくさん配当金を出すべきなのです。従業員の給料が増えれば、国は所得税収入が増えるでしょう。配当金が増えれば、やはり配当金課税で徴税できる。そうすれば一時的に課税回避された資金も、まわりまわって税として回収できます。

だから、いちばんケシカランのは、タックスヘイブンを使って課税回避しながら、その成果をステークホルダーに還元せず、ひたすら企業内部に蓄積していくような会社です。こうした企業は、経済活動の道具としてあるという企業の社会的存在意義を逸脱しているのだから、激しく批判されて当然なのでしょう。



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