2017年5月19日

SBI証券と楽天証券のiDeCo運営管理手数料が無条件で無料に―次は中身での競争が本格的に始まるか



個人型確定拠出年金プランと言えば、運営管理費の安さと低コストなファンドラインアップからSBI証券と楽天証券が最有力な選択肢と言えます。このため両社とも強烈な競争を繰り広げているのですが、遂に両社とも運営管理手数料を無条件で無料とすることを正式に発表しました。

SBI証券はiDeCoの手数料がみんな0円に!(5/19(金)から)(SBI証券)
iDeCo運営管理手数料改定!条件なしで誰でも0円に!(楽天証券)

これまでは残高など条件付きで運営管理手数料が無料となっていた両社ですが、いよいよ無条件で無料にするところにまで踏み込んできました。これからiDeCoに加入しようと思っている人にとっては、非常にありがたい措置です。そして、運営管理手数料の競争が行き着くところまで行き着いたことで、今後はプランの中身での競争が始まるのでしょう。引き続き両社の動きには要注意だと思います(なお、運営管理手数料とは別に国民年金基金連合会と事務委託先金融機関(信託銀行)に支払う管理手数料月額税込167円は全金融機関のiDeCoプランで共通に必要です)。

今回の両社の動きはなかなか劇的でした。従来、楽天証券が加入後1年間と残高10万円以上で運営管理手数料を無料としていたのに対して、SBI証券は残高50万円以上で無料となります(ただし、2017年6月までキャンペーンで50万円以下でも無料)。このため運営管理手数料の面では楽天証券のiDeCoプランに優位性があったのです。これに対してSBI証券は無条件で運営管理手数料を無料にするという大胆な手を打って巻き返しを図ったという構図。ところが18日付の日経新聞でそのことが一部報道された直後、なんと楽天証券がすぐさま追随して正式に運営管理手数料の無条件無料化のプレスリリースという素早さ。両社の間で激烈な競争が起こっていることをうかがわせて興味深いです。

私がiDeCoへの拠出を始めた2013年頃などは、月額400円程度の運営管理手数料を支払うのが当たり前でしたから、あの頃と比べると隔世の感があります。これからiDeCoに加入しようと思っている人にとっては素晴らしい運用環境が整ってきたと言えるでしょう。やはりこれもiDeCoの加入対象者が拡大されたことも含めて国としてiDeCoの普及を推し進めている効果でしょう。全体のパイが拡大すれば、iDeCoのような制度は一種の装置産業ですから、コストダウンが可能になるという良い例です。もちろん先行者利益が極めて大きい制度でもあるので、現状では採算度外視で加入者の獲得を進めているという面も大いにあると思います。

SBI証券と楽天証券による運営管理無条件無料化で、やはり簡単な手続きで実質的に運営管理手数料を無料にできるみずほ銀行のiDeCoプランも含めて、iDeCoでは運営管理手数料は無料というのがスタンダードとなりそうです。そうなると、次の焦点はプランの中身というより実質的なところに移っていくのではないでしょうか。

そのひとつが商品ラインアップでしょう。両社とも業界最低水準の低コストファンドをそろえていますが、とくにSBI証券は業界最大の商品ラインアップを誇りますから、いろいろな商品を組み合わせてポートフォリオを構成したい人にとっては魅力的です。もっともこれは将来的に弱点に転じる可能性もあります。というのも政府は現在、iDeCoの商品数を制限する方向で制度改正を検討しており、35本が上限となることが決まりつつあるからです。

iDeCoの商品数上限も35本に、デフォルト商品も明示へ=改正DC法の要件固まる(モーニングスター)

こうなるとSBI証券は既に65本の商品をラインアップしていますから、将来的に商品を整理する必要があります。このため今後、新しく魅力的なファンドが登場しても簡単にはラインアップに加えることが難しい可能性があるのです(もっともSBI証券のことですから、そんな当局への忖度は一切せずに、今後も新商品を追加する可能性もあります)。その点、楽天証券はまだラインアップを拡充する余裕がある。さらに魅力的なファンドが登場すれば、それをプランに追加できるということです。

もうひとつは、拠出時だけでなく給付時の利便性にも注目が集まるかもしれません。この点では楽天証券のプランに優位性があります。iDeCoは60歳以降に一時金方式か年金方式で積み上げた資産を受け取ることができるのですが、楽天証券のプランが両方式の併用が可能なのに対して、SBI証券のプランは現在のところどちらか一方の方式でしか受給できません。

iDeCoは受給時に退職所得控除や公的年金等所得控除を受けてこそ課税繰り延べ効果と運用益に対する非課税効果を発現できます。しかし、控除枠には一定の上限がありますから、例えばSBI証券でiDeCoを運用していた人が勤務先から退職金を受け取り、その上でiDeCoの資産を一時金で受け取った場合は控除枠からはみ出した部分に対して課税されます。これを避けるために年金方式で受け取ったとしても、やはり金額が大きいと控除枠からはみ出して課税対象になる(場合によって健康保険料負担も大きくなります)。

これに対して楽天証券のプランなら勤務先から退職金を受け取った人も、残りの退職所得控除の上限ギリギリまでiDeCoの資産を一時金で受け取り、残りは年金方式で受け取ることで節税効果を最大化することができます。こうしたことを考えると勤務先からある程度の退職金がもらえる見込みの人は楽天証券のプランの方が使い勝手が良いでしょう。この点に関してはSBI証券が対抗して追随することを期待したいところです。

もうひとつは、やはりiDeCoは長期の運用になりますから、安定したシステム管理など品質面での研鑽も重視して欲しい。実はSBI証券のiDeCoプランは最近、実際の運営を担うSBIベネフィット・システムズが事務委託先金融機関手数料を誤徴収するという失態を犯しました。最終的には原状回復がなされたのですが、やはり加入者としては良い気分ではありません。こういったミスが起こらないようにシステム運営・管理上の精度を上げていくことも、iDeCoが普及すればするほど注目されていくはずでです。

いずれにしても今回のSBI証券と楽天証券の決断を大いに評価します。やはりiDeCoに加入するなら、この両社(+みずほ銀行)のプランが選択肢として最有力だと断言できます。なぜなら、運用の成果は事前に予測できませんが、手数料の節約効果は確実に計算できるからです。そこにこそ、金融商品や制度を検討する際に手数料の多寡をもっとも重視しなければならない理由があるのです。

【ご参考】
SBI証券と楽天証券のiDeCoプランについては以前に詳細な比較を行いましたが、今回のコスト変更も盛り込んで内容を更新しています。関心があればご参照ください。

SBI証券と楽天証券の個人型確定拠出年金(iDeCo)を徹底比較―加入者の属性や考え方によってそれぞれに優位性がある

また、iDeCoプランの選択肢としてお薦めなのは運営管理手数料が無条件無料で低コストインデックスファンドをそろえるSBI証券、楽天証券、マネックス証券、イオン銀行、松井証券です。iDeCoへの加入を検討している人は、これら金融機関のプランも研究することをお勧めします。いずれもネットから無料で資料請求できます。⇒SBI証券確定拠出年金プラン楽天証券確定拠出年金プランイオン銀行確定拠出年金プランマネックス証券確定拠出年金プラン松井証券確定拠出年金プラン

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