2017年5月2日

投資対象として、ゴールドってどうよ?



先日、知り合いと雑談していたら「投資対象として、ゴールドってどうよ?」と聞かれました。その知り合いは投資に関してあまり詳しくないのですが、そんな人からも「ゴールド投資」の話題が出るとは、さすが“究極の実物資産”だと感心。確かにインフレヘッジとしてゴールドをポートフォリオの一部に組み込んでおくというのは、昔から資産保全のセオリーとしてありますし、ひとつの見識だとは思うのですが、その時は「あまりお勧めできない」と答えました。なぜかというと、日本人にとってゴールド投資は国際資本循環構造の観点から、思ったほどのリスクヘッジ機能を発揮できないと感じているからです。

古来よりゴールドは究極の実物資産としてインフレなどに対するリスクヘッジ資産として愛されてきました。ゴールド自体は利子など生み出しませんが、経済危機やハイパーインフレなどが起こると“無国籍通貨”として価格が上昇し、価値保存機能が発揮されるからです。このため日本でも金投資は根強い人気があり、私の知り合いにもゴールドを定期的に積み立てしている人がいます。

ただ、こういったゴールドのリスクヘッジ資産としての特性が日本人にも恩恵をもたらすかと言えば、やや疑問符が付きます。確かに経済危機などが起こればゴールド価格は急騰します。しかし注意しなければならないのは、ゴールドの国際価格と言うのはあくまで“ドル建て”の価格だということ。つまり、日本人がゴールドに投資する場合、為替の影響を大きく受けてしまう。それが日本人にとってゴールド投資が思ったほどのリスクヘッジ機能をもたらさない理由です。

例えば1978年から現在までの金価格の推移を見ると、実に興味深いものがあります(グラフは三菱マテリアルのホームページから引用)。



これを見るとリーマン・ショックなど世界的な経済危機が起こったときには金価格が急騰しているのが分かります。「やっぱりゴールドだぜ!」と思うのですが、よく見るとこれはドル建て価格。一方、円建て価格を見ると、それほど大きな上昇にはなっていません。それどころかグラフを細かく見ると、ドル建て金価格が上昇しながら円建て金価格が下落している場面すらあります。つまり、円建て価格では、経済危機などの際のリスクヘッジ機能がドル建て価格ほど発揮できていないということです。

これこそが為替の影響です。日本は経常収支が恒常的に黒字の国であり、さらに純債権国です。そういった国の通貨というのは国際資本の循環構造から経済危機などになると為替レートが上昇しやすい。実際に世界的な経済危機やリスクオフの局面になると、円高になるケースが多いです。するとせっかく上昇した金価格も為替で相殺されてしまう。円で生活する日本人にとって、ゴールドが持っているリスクヘッジ資産としての特性を十分に享受できないわけです。

ゴールドに本来求められるリスクヘッジ資産としての機能を十分に享受できないとなると、それ自体はリターンを生まず、逆に保有コストが必要になるというゴールド投資のデメリットが大きくのしかかってくる。だから「投資対象として、ゴールドってどうよ?」と聞かれた時、日本人にとってゴールド投資は“あまりお勧めできない”と答えたわけです。

もっとも、これはあくまで“現在の日本人にとって”ということであって、ポートフォリオにゴールドを組み込むこと自体を否定しているわけでありません。国際資本の循環構造が変わればゴールド投資の意味も変わってくるでしょう。もし今後、日本経済がどんどんと衰退を続け、恒常的に経常収支が赤字になり、債権国から債務国に転落するようなことになれば、恐らく経済危機などの際には円が急落し、インフレ率も急上昇するでしょう。そうなると俄然、日本人にとってもゴールドはリスクヘッジ資産として文字通り光り輝いてくる。だから、もし日本が現在のブラジルや南アフリカと同じような経済構造になれば、私も全力でゴールドを買いたいと思います。

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