2016年12月3日

現金が必要になれば、いつでも株式や投資信託は売却します



相場が持ち直してきたことで、含み益を抱える投資家さんも増えてきたことでしょう。ところが面白いもので、含み益を抱えたら抱えたで新たな悩みが生じるもの。それは「いつ売ったらいいのだろう」という問題です。これは投資における難しい問題で、よく「買いは技術、売りは芸術」といわれるように、投資は圧倒的に買いよりも売りの方が難しい。それでは果たしていつ売ればいいのかということですが、結論から言うと、投資家それぞれが自分で納得も得心もできるなら、いつ売っても構わないということになります。なぜなら、買いは「技術」ですから、ある程度は万人にとって最適解に近い買い方があるのに対して、売りは「芸術」なので、あくまで個人の感覚によるから。つまり、それぞれ投資の方針や目的に応じて良かれと思うタイミングで売れば、それがその人にとっての最適解だし、売った後で後悔するようなら、それはその人にとって失敗だったというしかないのです。「それじゃ、オマエはどうなんだ」と聞かれるかもしれません。私の場合、現金が必要になればいつでも株式や投資信託は売却します。なぜなら、私にとって投資というのは、あくまで資産を様々な形態で“持っておく”ことが目的だからです。

私は投資に関しては比較的コンサバティブな考え方を持っていますので、単純に昔ながらの「財産三分法」を国際分散投資でやっているだけです。つまり、資産を現金だけでなく、国内外の株式や債券という形で“持っておく”ということ(不動産に関しては、いずれ相続しなければならない土地・建屋が僅かばかりあるので、いまのところ個人では保有していません)。その目的は何かといえば、結局はインフレ対策に尽きます。つまり、インフレになったときに資産の実質価値が毀損しないようにすることが目標なわけです。

そういう考え方だと、含み益や含み損というのは、それほど大きな問題ではありませ。例えば株式や投資信託が値上がりしているからといって利益確定してしまうと、アセットアロケーション全体の現金のウエートが増える。でも、増えたのは現時点での名目価格にすぎません。それよりも現金のウエートが増えてしまったことで、実は資産全体のインフレに対する実質価値の耐久力が低下したと思ってしまう。つまり、資産全体の名目価値が増加することよりも、現金を含めたアセットアロケーションのウエートを一定にすることの方が私にとっては重要なのです。

この場合、株式や投資信託をいつ売るのかという問題も簡単に答えが出ます。つまり、現金が必要になれば、いつでも売却して現金化するだけ。例えば総資産3000万円の人がいたとします。現金1500万円、株式1500万円のアセットアロケーションだとすると、現金と株式のウエートは50:50です。この人が中古マンションを1000万円で買わなければならなくなったとして、それをすべて現金で買えばどうなるか。新たなアセットアロケーションは現金500万円、株式1500万円、不動産1000万円となる。明らかにウエートが異常だし、リスク過剰になっている。私なら株式を500万円分売却して、それをマンションの購入代金の一部に充てる。そうすれば、新たなアセットアロケーションは現金1000万円、株式1000万円、不動産1000万円となり、それほどリスク過剰になりません。

だから私は、現金が必要になれば株式や投資信託は躊躇なく必要な分だけ売ってしまう。含み益だろうが含み損だろうが関係ありません。なぜなら、その時に必要なのは、あくまで「現金」なのですから。そして、現金が必要なときというのは、得てして不意に訪れるものです。そんなときに、含み損になっている株式を売るのを躊躇して、アセットアロケーションの現金のウエートが低くなってしまうのは怖いことです。逆に現金が必要でもないのに、含み益が出ているからといって深い考えもなく株式や投資信託を利益確定売りしてしまうのも、やはりアセットアロケーションのウエートを狂わせるだけで馬鹿らしいと思うのです。

「現金」というのは、資産全体のリスク管理上は非常に重要なアセットなのですが、だからといって他のアセットに対して特別扱いしする必要はないと思う。それは貨幣の物象化・物神崇拝です。なぜこういったことを気にするかというと、現金に対する物象化・物心崇拝が過ぎると、ときたまとんでもないことを考える人がいることに気づいたからです。

貯蓄を減らさないようローン? 本末転倒な家計(NIKKEI STYLE)

貯蓄を減らしたくないから借金をするというのは、あきらかに馬鹿げたことです。しかし、よくよく考えると現金が必要でもないのに株式や投資信託を売って手元の現金を無意味に増やしてしまうのは、表面的な現象は逆でも、現金を特別扱いしているという意味では同じ心性が働いているといえるでしょう。だから私は「いつ売るの?」と聞かれれば、「カネが必要になったとき」と答えるのです。

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