2016年6月27日

『はじめての確定拠出年金投資』―文字通り“はじめて”の人に最適な入門書



改正確定拠出年金法が成立したことで、2017年1月からほぼすべての現役世代が確定拠出年金(DC)に加入できるようになります。とくに個人型DCは税制優遇措置があることから老後に向けた資産形成のツールとして極めて重要です。ただ、制度がやや複雑なため、利用するためには少しばかり勉強が必要。そこで最新の内容を踏まえた解説書がこれから多く出てくることでしょう。今回紹介する大江英樹さんの『はじめての確定拠出年金投資』もそんな1冊。良心的な著書で知られる大江さんらしく、今回も非常に分かりやすく、それでいて極めて大切な原理原則について書かれているのが素晴らしい。文字通り「確定拠出年金ってなに?」と思っているような”はじめて”の人に最適な入門書になっていました。

本書は入門書のため、確定拠出年金の基本的なところをざっくりと解説しているのですが、さすが大江さんだけあって、とても重要なこと第1章で指摘しています。それは社会保障制度というのは「三脚」でできているということです。年金なら「公的年金(国民年金)」「企業年金(厚生年金)」そして「自分年金」です。そして、自分年金のための有力な選択肢が個人型確定拠出年金だということです。

この指摘がなぜ大事かというと、そもそも社会保障というのは「公助」「共助」「自助」のバランスで成り立つという大原則を示しているからです。それぞれの強弱は国によって異なります。大江さんも指摘していますが米国は「公助」が弱い替わりに「自助」が非常に強くなっている。日本はこれまで「公助」と「共助」が充実していました。しかし、少子高齢化によって日本の「公助」「共助」は細らざるを得ない。これに対して政治的に意思表明することは大事ですが、現実問題としては「自助」を強化するしかないわけです。文字通り三脚は脚が1本でも欠けると立つことができない。ここに、なぜいま国は確定拠出年金制度を拡充したのかという理由があります。

こういった大原則を最初に理解することによって第2章からの具体的な解説が意味あるもになる。個人型DCの運営管理機関の選び方、運用の基礎となるアセットアロケーションの考え方、基本的にインデックスファンドを選択することの合理性、リバランスの大切さ、さらに受け取り時の手数料や注意点など確定拠出年金に加入する場合、最低限は理解しなければならない内容を丁寧かつ平易に解説しています。

個人型DCの場合、運営管理機関の選択が重要になりますが、お薦めの金融機関としてSBI証券や野村證券、りそな銀行など具体的な名前を上げた上で、運営管理手数料の安さと低コストな商品がそろうのはSBI証券だとはっきり書いているのも良心的。同時に、りそな銀行は店頭でも相談ができるので、それはそれでメリットがあると指摘するのは著者の細やかな親切さの表れでしょう。加入対象者が拡大されたことで、ネット証券ではなく店頭で相談できる銀行のプランを使いたいというニーズはあるはずで、その場合の最もベターな選択肢を提示してくれたわけです。

また、運営管理機関の変更方法にも言及しているのにも好感を持ちました。私自身、琉球銀行の個人型DCプランからSBI証券のプランに移換手続中ですが、やっぱり面倒くさいです。手続き自体は簡単なのですが、何しろ時間がかかる。その間に今回のBrexitショックのようなことが起こると余計なデメリットも背負い込んでしまう。だから慎重に金融機関を選ぶべきという指摘には同感です。

個人型DCに興味を持ち始めた人だけでなく、企業型DCに加入したての新社会人などにとっても非常に役に立つ本に仕上がっています。これを読んでさらに制度に興味がわいて来たら、もう少し詳細な解説書(例えば山崎元さんの『確定拠出年金の教科書』や岡本和久さんの『自分でやさしく殖やせる「確定拠出年金」最良の運用術』など)に進めばいいでしょう。確定拠出年金についてなにも知らないけれども、関心を持ったという人は、まずはこの1冊から勉強を始めてみてはいかがでしょうか。

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【追記】
現在はSBI証券、楽天証券、マネックス証券、イオン銀行、松井証券のiDeCoプランがいずれも運営管理手数料が無条件無料で低コストインデックスファンドをそろえています。iDeCoへの加入を検討している人は、これら金融機関のプランも研究することをお勧めします。いずれもネットから無料で資料請求できます。⇒SBI証券確定拠出年金プラン楽天証券確定拠出年金プランイオン銀行確定拠出年金プランマネックス証券確定拠出年金プラン松井証券確定拠出年金プラン

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